こぶ(その5) アグロバクテリウム(その2)

こぶ(その4)で、樹木の主幹に大きなこぶをつくる犯人は、土壌細菌のアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens:アグロバクテリウム ツメファシエンス、又はRhizobium radiobacter:リゾビウム ラジオバクター)であることが判りました。
名古屋大学の町田先生の話によると、
アグロバクテリウムは土壌細菌なので、根で感染し、それが維管束、細胞間隙を伝わって植物の体内を動き、傷ついた細胞に出会うと感染し、細胞増殖を誘発し、こぶができるのではないかと考えている とのことです。

ニセアカシアなど老木に見られるこぶは、当初は根や地際で感染し、アグロバクリウムが維管束や細胞間隙を伝わって樹幹の上の方まで上がり、こぶができるようです。


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それでは、このアグロバクテリウムという土壌細菌は、どのような植物に病気を発生させるのでしょうか
最も有名なのが、バラの根につく根頭がんしゅ病です。
以下はタキイ種苗のホームページから引用しています。
根や地際茎部、接ぎ木部に、表面がごつごつした大小さまざまなこぶを生じる。こぶは初め白色で、徐々に乾固して黒褐色のざらざらしたこぶとなり崩壊する。侵された株は周囲の株に比べ生育が若干劣るため、次第に競争に負けて、枯死する。
病原はアグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)という細菌の一種で、1~3本の鞭毛を有する1~3×0.4~0.8μmの棹状細菌である。14~30℃で生育し、適温が22℃、死滅温度は51℃。多くの作物に本病を引き起こす多犯性の細菌である。

 病原細菌は傷口から侵入し、土壌伝染、接触伝染によって広がり、土壌中に長く生存する。したがって発病株は全身が汚染されている場合が多いので、接ぎ木用の母木には用いない。また、汚染株を切ったり、掘り起こしたりした刃物やスコップなどに病原細菌が付着して、健全株の切り口などを次々に汚染する。

タキイ種苗はタネを販売している会社なので、“ 多くの作物 ” と書かれていますが、調べてみると、発芽したときに2枚の葉が出てくる双子葉植物や一部の裸子植物と単子葉植物はこの土壌細菌の餌食?対象になるようです。 ということはほとんどの植物がこの細菌に侵されるということです。

アグロバクテリウムはリゾリウム属に属するのですが、リゾリウム属の中には、空気中の窒素を固定して植物の根と共生する細菌=根粒菌があります。 作物ではダイズなどの豆類、樹木ではニセアカシアやフジなどがマメ科植物が良く知られています。
同じリゾリウム属で、他の植物と共生して窒素を供給する有益な働きをする細菌がいる一方、もう一つは根にこぶを作って宿主を弱らせる作用をする細菌がいることです。 同属の近縁種が同じようなこぶ(ゴール)を作るのですが、宿主にとって全く正反対の作用をもたらすのは、皮肉というか面白いものです。

さらに面白いのは、植物に悪さをするアグロバクテリウムが、最近の遺伝子組み換え技術には重要な道具?資材?方法?になっていることです。 作物の品種改良、例えば作物に耐病性を付与したり、甘味があって美味しい品種を作出など、その中で最も有名で問題になっているのは、この技術を使って(おそらく)作られた農薬をかけても枯れない農薬耐性のある遺伝子組み換えダイズです。 このように、アグロバクテリウムは、植物の形質を変える遺伝子組み換えに広く利用されているのだそうです。

アグロバクテリウムをウェブページで調べる(コトバンク)と、
植物に対して病原性をもつグラム陰性菌一群総称プラスミドのはたらきにより、自身のDNAを植物体に送り込み、形質転換を生じさせる性質がある。外部から特定の遺伝子を組み込むトランスジェニック植物作出に利用される。

と書かれているのですが、グラム陰性菌、プラスミド、トランスジェニック植物など見慣れない用語が並んで、理解できたようなできないような、いまいちはっきりしないのですが、分かりやすく言うと、植物細胞に感染してDNAを送り込む(形質転換)性質がある ことのようです。

南区に自衛隊の真駒内駐屯地があります。 その南西側境界沿いに昭和40年代に植えられたニセアカシアが列植されています。 樹齢は60年前後と思われます。 それらのニセアカシアの主幹にこぶを見つけることができます。 こぶ(その4)の冒頭の画像がそれです。
真駒内方面をサイクリングするときに、これらのこぶをたまに見るのですが、その大きなこぶの中にアグロバクテリウムという土壌細菌がいて、それらは大豆などにつく根粒菌と近縁種で、さらに、人類の先端技術:遺伝子組み換えに重要な役割を果たしていると考えると、今度見るときは、あの異様で醜いこぶに対して見方が少し変わっているのかもしれません。