山鼻公園

札幌の中心部から2kmほど離れた南西の位置(中央区南14条西10丁目)に山鼻公園があります。 当公園は札幌市で児童公園の第1号で、昭和27年度に完成しています。  面積は6,300㎡で街区公園としては大きい部類に入ります。
この公園は、西側を国道230号、北側に山鼻小学校、東と西はマンションが建っていて、公園の四方が道路に接しているために隣接地からの苦情がないためか、樹はのびのびと枝を伸ばして大きく成長しています。2013.7.13
園内には、他の公園には見られないような大きなイチョウやプラタナスが立っています。 この時期、朝夕に近隣に住んでいる年配の方が、この大木の下にあるベンチで本を読んだり、夕涼みをしたりと、憩の一時を過ごしているのを見かけます。
2013.7.13
写真は、幹径が1.5mもあるプラタナスの巨木の周りに造られた水遊び場で遊んでいる子供たち

写真のプラタナスは、おそらく公園造成時(昭和26年頃:今から65年前、樹齢:75年前後)に植えられたもので、札幌市内で最も古いプラタナスの一つではないでしょうか?

私はこの公園にときどき来るのですが、いつも子供たちの声が聞こえてきます。 街区公園では、「ボール遊びをしてはいけません」という注意看板をよく見かけるのですが、この公園にはそれらしきものがありません。 おそらく、ベンチで老人が休んでいたり、広場では小さな子供たちが遊んでいたりして、危険が伴うボール遊びはしたくtもできないのではないでしょうか。

昨今、郊外の街区公園では、「いつもだれもいない公園」、「鉄棒の錆びついた公園」が多くなっているのですが、その点で、当公園は学校が隣接していて、大きな樹があり、周辺の子供たちや住民が集まってくる、老若男女みんなが楽しめる理想的な公園になっているようです。2012.10.26
写真はイチョウの大木です。 主幹には、洞窟の壁や天井からつららのように垂れ下がる鍾乳石のようなものがぶら下がっていますが、それは「乳」と呼ばれるものです。 英語でも「chichi」と呼ぶそうです。 私の知っている札幌市内にあるイチョウで「乳」のあるものは、ここの山鼻公園のもの、道庁赤レンガ庁舎近くの園路側にあるイチョウ、北大植物園のイチョウ(ここの「乳」はまだ小さい}の3本です。
本州には巨大な「乳」をもつイチョウが多数あり、青森県にある天然記念物の「北金ケ沢のイチョウ」が有名です。
→ 北金ヶ沢のイチョウ(青森県)
北金ヶ沢のイチョウの写真を見ると、山鼻公園の「乳」はかわいく見えますが、それは、北海道にイチョウが移入されたのが明治に入ってからで、道庁前の並木と赤レンガ庁舎前のイチョウは今から93年前の大正14年に植樹されており、樹齢は100年前後と推測できますが、本州の天然記念物や各都府県で保存樹になっている数百年~1000年のイチョウに比べると比較にならないくらい若い樹だからです。

山鼻公園を含むこの一帯は、明治初期に屯田兵が入植した場所で、また、戦前まで兵士を訓練する練兵場があったところです。 おそらく、その管理棟の横にでも植えられたのでしょうか?
イチョウに「乳」ができるのは、雄株でも雌株でも出来るそうで、老大木ほど大きな「乳」をもっています。 しかし、それがいつ頃から出来るのかは個々の樹木により異なるため何年経てばできるとは明快に言うことはできないようです。 北区篠路にある龍雲寺のイチョウは推定樹齢100年以上(2012年記載)といわれていますが、その主幹には「乳」は見当たりません。
当公園のイチョウは、 この公園の歴史的背景や樹の大きさ(樹高や主幹の太さ)、「乳」の出現から推測すると、道庁や北大植物園にあるイチョウと並ぶ札幌で最も古いイチョウに一つと考えられます。

 

<余談:イチョウにどうしてあのような奇怪な「乳」ができるのか?>
日本植物生理学会のページ「みんなのひろば」に丁寧な解説がありました。

イチョウの「乳」のことですね。これは英語でもChichiといいます。乳房に見立てての名前です。古くなると出る木がありますね。ただ、雄の木でも雌の木でも出ます。出ない、あるいは出にくい個体もあります。乳が発達する古木は、古来から信仰の対象になることが多く、日本各地に垂乳根のイチョウであるとか、乳イチョウであるとかいう名称で呼ばれ、母乳がよく出るようにという願掛けなどに信仰を集めてきました。東大の構内にも多数のイチョウが植えられているので、その多くで乳の発達が観察できます。

その乳の正体ですが、まだ意見が分かれているのが正直なところです。イチョウのような裸子植物は、古い時代の植物の特性を未だ残していることがあって、そのことから、ヒカゲノカズラなどが持っている特殊な器官、担根体ではないかという意見もあります。担根体とは、根でも枝葉でもない構造で、ヒカゲノカズラのような小葉シダ類がもつ特異な器官です。この担根体は、場合に応じて先端が根に変じたり、枝葉に変じたりするのが特徴です。バラやカエデのような被子植物には、こういった器官はなく、そのため根の先からは根のみが、枝の先端からは枝のみがでるのが基本で、根から枝、あるいは枝から根が出る場合には、その先端ではなく途中からできるのが原則です。ところが担根体は融通が利き、その先端を枝にしたり根にしたりすることができるのです。イチョウの乳は、よく見ると根を生やすこともあれば、枝に変化することもあります。そのため、担根体の名残なのではないかという説が生まれた次第です。ですが最初に述べたとおり、まだ結論には至っていません。

なお乳のことを気根であると書いているものもありますが、あくまで根の一部である気根にしては上記のように奇妙で、枝にもなることができる構造ですので、間違いであろうと思われます。

塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科・教授)
JSPPサイエンスアドバイザー