エゾユズリハ(その2):上下する葉

5月末に野幌森林公園へ行ったときに、エゾユズリハの枝を持ち帰って雄花を咲かせたことを6月13日のブログで紹介しました。
その枝の花を咲かせるために10日間ちょっと、ビンに浸けておきました。採穂2日後に気づいたのですが、新葉が少し弱っている感じで水平より少し垂れ下がっているのです。ちょうどその頃、5月下旬から6月上旬にかけて北海道は異常に暑く真夏並みの気温が続いていたので、花瓶の中の水温も上がってしまって「くたびれたのかな?」と思い、水を取り換えてやりました。その晩、その葉を見ると、ピンとほとんど真っすぐ上に立ち上がっているのです。やっぱり、水温が高くなったことと古くなったことが原因と思ったのですが、その翌日以降も昼間は葉が垂れ下がり、夜になるとピンと立ち上がるのを繰り返すのです。
010 エゾノユズリハ
昼の状態
008 エゾノユズリハ
夜の状態
土などに植えて、それが乾燥して水分の不足で植物が萎れるのは解るのですが、瓶に浸けて樹体内の水分は十分にあるのに昼間に新葉が垂れ、夜になると葉が再びピンと立ってくるのです。この現象はどのような作用により起こるのだろうか?、それは、昼夜間の温度や湿度の差によるものか?、それとも、ネムノキのように生理的な作用によって起こるのか?などといろいろと考えを巡らすのですが、自分なりにピンとくる答えが見つかりません。
それで、このような素朴な疑問に丁寧に答えてくれる「日本植物生理学会」のホームページに「みんなの広場」という質問コーナーがあり、そこに上述した内容で質問してみました。
回答を読んで自分なりに考えをまとめると、
茎切口の吸水力は、葉と他の樹体表面からの蒸散の量によって決まりますが、植物は昼間光合成を行うために気孔を開いて二酸化炭素を取り入れる必要があり、夜はその必要がないため気孔を閉じています。今回の場合、昼間高温で気孔からの蒸散量が多いために、葉をピンと立てるほど茎からの吸水では間に合わず、葉が少ししおれたように少し垂れ下がった状態になり、一方、夜は気孔が閉じて、その分蒸散量が少なくてすむために、葉内に水分が十分に保たれて、葉がピンと立ち上がった、ということになります。身近なところでは、この時期、公園や家庭菜園などで葉面積の大きい植物で見られるのですが、天気の良い朝、ピンと張っていた葉が、強烈な太陽に当たる昼間になるとぐったりと垂れているのを見ることがあります。この現象とエゾユズリハの上下運動は、同じ作用、同じ意味合いで起こっている  と考えたのですが、いかがでしょうか?
以下は専門家による回答文です。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
よく観察されていることに感服いたしました。花瓶に活けた切り枝でこのようなことが起こることはあまり耳にしませんが、茎切口からの吸水量と葉における蒸散量とのバランスが原因で起こったものと考えられます。葉が萎れるかぴんと張るかは葉に含まれる水の量が重要で、水が十分にあると細胞内の圧力(細胞が膨れる力、膨圧)が大きくなり、葉は張った状態になります。空気の抜けたタイヤと十分に空気で膨らんだタイヤの状態と同じ関係と考えてよいかと思います。
鉢植えの植物でも、土壌への水やりを止めると葉が萎れることはご存じのとおりですが、その状態にしばらく置くと萎れた葉も立ち上がってくることが知られています(インゲンとかダイズなどの幼植物で観察されています。ただし極端に水分不足がおきていればこのようなことは起こりません)。昼間、葉の中の水分は気孔から蒸散で失われていますが、通常は根の吸水量が十分に大きいので葉の膨圧は高く、きちんと張った状態に保たれます。しかし、土壌中の水分が少なくなると根の吸水量も減少して、蒸散で失われる水の量が大きくなり葉は萎れます。葉が萎れる(水ストレスを受ける)と気孔を閉じることに働くアブシシン酸という植物ホルモンが急速に合成されて昼間でも気孔が閉じます。その結果、蒸散量が減少し、根からの吸水量が相対的に大きくなるので再び葉は立ち上がると説明されています。
これと同じような現象が切り枝で見られたのでしょう。昼間は気孔が開いており、蒸散量が多い状態ですが、夜になると気孔は閉じる(気孔の開閉には光も重要です)ので蒸散量は少なくなります。一方、切り枝では茎の切口から吸水されますが、昼間は気孔からの蒸散量が少しばかり大きいので葉は垂れ下がった状態になったのでしょう。夜になると気孔が閉じますが吸水は葉の膨圧が回復するまでは続きますので水平に張ってくることになります。切り枝の場合、茎切り口からの吸水力は、気孔からの蒸散とその他体表面からの蒸発による枝全体の水不足によるものですので、気孔開度の微妙な変化が葉の膨圧を調節していることになります。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)

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エゾユズリハ:譲らない葉

先月の話なってしまいますが、5月31日に札幌の中心部から西へ約10kmほど離れたところにある野幌森林公園へ行ってきました。当公園は面積が2,000haを超える道立公園です。過去に3回ほどここを訪れたことがあるのですが、いつも北海道百年記念塔と開拓記念館の中心施設を見学するだけだったのです。それで、今回は、開拓前の石狩平野に拡がっていた森林を垣間見ようと、ふれあい交流館~瑞穂の池まで約2kmの自然林を散策してきました。

011 イチイ 野幌森林公園 高さ7~8m?-0012014.5.31
自然林の中に生えているイチイ(オンコ) 樹高8~10m前後
野幌森林公園は自然林と人工林が布をつぎはぎしたように拡がっており、この散策コースも“ふれあい交流館”からしばらくは整然と植えられた人工林が続きます。 瑞穂の池に近づくにつれてハルニレやシナノキなど幹の太い樹が多くなる自然林が見られます。そんな鬱蒼とした森林の散策路脇で見つけたのがエゾユズリハです。
014 エゾユズリハ2014.5.31
円山や藻岩山では見かけたことがなかったのですが、初めて歩いた森林公園の園路脇で見つけたので、この野幌の自然林にはたくさん生えているのでしょうかね。 高さは1m弱で、写真のようにかたまって生えるようです。その回りに針葉樹が見えます。ハイイヌガヤのようです。
近づいて見ると、葉の付け根に開花前のつぼみを付けています。咲いている花の写真を撮りたくて、枝を家に持ち帰りました。
013 エゾユズリハ2014.6.8
それは雄花でした。しかし水挿では上手く咲かせきれませんでした。エゾユズリハは雌雄異株です。この雄花は3cm強で、総状花序、花弁のない雄ずい(やく)のみの原始的な花です。
枝を採取して室内で花を咲かせることがあるのですが、雌雄異株の樹種の場合、なぜか雄花が咲くことが多いようにおもいます。

<余談:譲らない葉>
、“ユズリハは新葉が開くと古い葉が落ちる(譲る)”と言われていますが、エゾユズリハは、実際はそのようではないようです。写真からもわかるように新葉が出てきても、昨年の葉はしっかり残っていて、この時期なら一昨年の葉も残っています。おそらく、これから、いつ頃とはいえませんが、一昨年の葉が順次黄葉して落ちていくのでしょう。
これに関して、“木の大百科”に以下の記述があるので紹介します。
「ユズリハという名は、春に新葉が出てから旧葉が落ちる入れかわりの様子がよく目につくことによっている。これから親子草という稚名もある。ただし旧葉が全部落ちるのではなく、多くは下方につく前々年のものである。」

 

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