トウガラシ

花は径1.5cmくらいで白、花冠は5~6裂しており、雄ずいも5~6本、やくは青紫色です。 普通の栽培では、初夏のころから秋まで次々と咲き続け、1株で200個以上も花をつけます。
シシトウ
2015.7.6
この花はトウガラシではなく、シシトウです。 シシトウは獅子唐辛子、甘唐辛子

◆コロンブスが伝えた香辛料
ナス科。 原産地は熱帯アメリカのアマゾン河流域らしいこと。 ペルーの海岸で発掘された1世紀ころとみられるインディアンの織物から、この果実を精巧に刺しゅうしたものがみつかっています。
コロンブスの航海の目的の一つは、新しい香辛料を探すことだったともいわれています。 胡椒よりも辛いこの植物を手にしたとき、彼の喜びは想像を絶するものだったことでしょう。15世紀にヨーロッパに広まったトウガラシは、16世紀にはインドや中国に伝えられました。
わが国への渡来については、天文11年(1542年:戦国時代)、ポルトガル人によってもたらされたという記録のほか、2~3の説があります。
貝原益軒の著した「大和本草」には “昔は日本に無之” 。 秀吉公伐朝鮮時、彼国より種子を取来る。 故に俗に高麗胡椒と伝 ”  とあるそうです。

◆ところにより呼び名も変わる
漢字では唐辛子・唐芥子・蕃椒などと書きます。
地方によって、トンガラシ・トンガラス・トンガラセ・トンガラショなどとなまっています。 北海道ではナンバンで通用し、古くから “札幌太長ナンバン” という品種がなじまれています。
かつて、私が九州に旅した時のこと、観光バスのガイドさんから、この地方ではトウガラシのことを胡椒というのだと聞きました。 それは、しきりと来航し、脅威を感じている唐の国を快く思わず、唐の字を冠することを嫌ったからだということです。

◆北国の食生活には欠かせない
もしも、この世に香辛料というものがなかったら、食生活はさぞや無味乾燥なものとなるのでしょう。
そばやうどんの薬味にトウガラシは欠かせません。 漬物にも辛味が必要です。 北国育ちの私にとって、キムチはことのほかの好物です。生活環境の厳しい所に暮らす人ほど、強い辛味を好みます。 ちょっと古い書物から引用しましょう。
“蕃椒の辛味は※ピペリンという揮発性のもので、これの効用は発汗剤となり、興奮剤となる。 労働者は此の蕃椒粉を好むが、労働すれば老廃物が蓄積する。 之を消すものがピペリンであると云う。 尚蕃椒は消化を助ける効があり、従って食欲が増進される。 けれども過量に食すると直腸を刺激して痔を起こすから注意を要する” と。
(札幌市農業センター 林 繁)

※ピペリン 
ピペリンは、コショウ科の植物に含まれる独特の辛み成分のことで、その効能は、エネルギーの代謝を上げる作用や、血管を拡張して血流を上げ、冷えを改善する作用を持ち、また、抗菌作用、防腐作用、殺虫作用などで、、特に黒コショウに多く含まれることのようです。 一方、トウガラシ(唐辛子・唐芥子・蕃椒)の辛味成分は、カプサイシンです。 両者の効能はよく似ているようです。
林さんが “野菜の花” を書かれたのが今から40年前の昭和50年代で、上述で引用されている書物はそれよりも相当古い書物らしく、書かれている文章や単語から類推すると、戦前のものの可能性さえ感じます。 今でこそ精密な成分分析機器も整い、果実や野菜類の機能性に注目が集まっていますが、その当時(引用された書物が書かれた時代)は、まだ正確な分析やそれに伴う分類がなされていなかったのでしょうね。