ダイコン

宗次郎に
おかねが泣きて口説き居り
大根の花白きゆうぐれ
夫の宗次郎に女房のおかねが泣きながらよく生活の苦しさを訴えていた。大根の花が白く咲いている故郷の夕暮れよ。 モデルは渋民の農業沼田惣次郎夫婦で、通称おかねさんと呼ばれた女房のイチが酒飲みの夫をつかまえて泣きながら処世の苦しみを訴えていたある日の光景を歌ったもの。(「石川啄木必携」 岩城之徳・編)

貧しい農村の哀愁を歌ったものでしょうか。
1~2年生草本で花茎は60~100cmくらい、長楕円形のがく片と、卵形の花弁がそれぞれ4枚の、典型的なアブラナ科(十字架)の花です。 花色は白、まれに黄色や紫混じりのものがあります。
2018.9.1      写真はミニダイコンの花
原産地には諸説がありますが、ダイコン属の野生種は地中海沿岸に多く、栽培の起源はエジプトと言われています。学者の考証によると、シルクロードを経て中国には2,400年前、わが国には1,200年前に渡来したとされ、かなり古い時代に分布を完了したことから、形態の変化が非常に大きい作物です。

<世界一のダイコン国日本>
於朋 禰(おほね)、須々志呂(すずしろ)などとも呼ばれ、これほど四季を通じて米食と密着した野菜は数多くありません。 獅子文六は『食味歳時記』、に

ダイコンなんて、明日からなくなってもいいという、若い人は多いだろうが、・・・・・ 大根ほど、日本的な味わいを持っている野菜は、少ないのである。  そして日本ほど、ダイコンの食べ方の研究が進んだ国もないのである。

と書いています。 明治38年に農林統計が始まって以来、常に作付面積の王座を譲らないのがダイコン。汁の実、煮食はいうに及ばす、おろし、なます、切り干し、そしておでんには欠かせないもの。 漬物には万能選手。なかでも有名なのはたくあん漬けで、臨済宗の高僧沢庵が始祖として知られていますが、定かではなく、“ 蓄え漬け ” が転じたものともいわれています。

<ダイコン仲間の変わりだね>
変異が起きやすく風土によく馴染むので、特色のある地方種が沢山できました。 三浦、練馬、聖護院、阿波、美濃など、地方に由来するものだけでも枚挙にいとまないほどです。
世界でも一番長いといわれる守口大根は、長さ120cmに及ぶものがあるそうで、長良川や木曽川の流域に堆積された肥沃な砂質土に限られて生産されています。 直径3~4cmで細く、辛みが強いことから生食には不向きで、もっぱら守口漬けとして愛好され、土産品として有名です。
世界一ジャンボなのは桜島大根。 40kgを超えるものもあって、一番小さな二十日大根に比べると300~400倍もあるという代物。 生育期間も長く、6~8ヵ月もかかるそうです。 冬暖かく、噴火で堆積した軟石層という環境でよく肥大します。

<冬来たりなば漬物で>
かつて、札幌では、新琴似がダイコンの名産地。 霜置くころ、ダイコンを満載した馬車が街を往来した風景は、昭和30年代まで見られた、冬近い北の街の風物詩でもありました。 そして、葉も干したり漬けたりして、厳しい冬の生活に懸命に備えたものです。
世は移り食生活も変わりました。 そして今、日本最大で最長の不景気を迎えています。 冬の食生活、昔の人たちの方が賢かったような気もしますね。
(札幌市農業センター 林 繁)

<余談>
我家ではダイコンのビール漬けを毎年ほんの少し作っています。 かれこれ30年近くになります。 お盆の頃にタネをまいて11月上旬に収穫します。 タネをまいてから約80~85日で収穫です。 それを1週間~10日程天日干しにします。 10月中旬過ぎ頃から、我家の周りでも個人の庭先にこれを見かけることが出来ました。 しかし、10年程前から、この天日干しの姿が見られなくなったと感じていたのですが、最近では、スーパーや食品店の店先にも10本入りの袋詰め漬け物用ダイコンを見かけなくなりました。 泥の付いたダイコンなどはほとんど見かけません。 以前は店先に山のように積み上げられていたのですが、それがなくなってしましまた。

私は昭和20~24年生まれの団塊世代後の生まれなのですが、団塊世代と私の世代も含めて現在65才以上の人々は、子供たちは親元を離れて独立して家に残っているのは老夫婦二人だけになっている世帯が多いのではないでしょうか。 お漬物を大量に作る必要もなくなってきたのでしょう。 スーパーに行けば多種多様な漬け物が袋入りで売っているので、敢えて手間暇かけて漬け物を作る必要性、動機が薄れてきているのです。 親元を離れた子供たちも、それは懐かしい味でお母さんが作ってくれるなら食べるけれど、お母さんに教えてもらって再度作ろうという気持ちはさらさらなさそうです。
30~40年前は街のあちこちでダイコンの天日干しを見かけました。 現在はその姿を見かけることはなかなか難しくなっています。 昔ながらの初冬の風景が一つ消えていきます。

 

 

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