ジャガイモ

ジャガイモ。 果たして野菜かな! 主食! 加工原料作物! 園芸書によると、根菜または塊根類。 食用に供しているのは、地下茎先端の肥大した部分です。 連想ゲームなら、若い人はサラダ、コロッケ、ポテトチップを思い、戦中派は、さしずめ代用食とくるところでしょう。

馬鈴薯の芽吹き初めたる庭にして  遅配の米を少しもらひぬ。   -昭和万葉集より-

代表的な救荒作物で、天災や飢饉、そして戦争の荒廃からどれほど多くの人命が、この作物によって救われたかわかりません。 十勝開拓の祖、晩成社依田勉三の「開拓の始は豚とひとつ鍋」の中味も、多分ジャガイモが主だったと思われます。 お助けイモ(群馬)、弘法イモ(愛知周辺)とも呼ばれ、北海道ではゴショイモ(1株から5升もとれる意)で通用するように、土地を選ばす冷害でもよく育ちます。
バレイショ 男爵 2013.7.6

<インカ帝国でも主要作物>
トマトと同様ナス科、発祥地も似ておりアンデス山系標高1,000mくらいのところ。 チリからペルーに伝わったジャガイモは、16世紀にはヨーロッパに渡り、北方圏で多くの普及を見ました。

わが国には天正年間(約400年前)、ジャワから長崎地方に伝えられたところから、ジャガタライモ略してジャガイモ。 牧野博士によると、ジャガイモと馬鈴薯(バレイショ)は異なる作物ということですが、現在ではジャガイモすなわち馬鈴薯とされます。
寛政年間(約200年前)には、ロシアから樺太を経由して北海道入りしたとのことで、本道には南と北の2経路から伝播し、原産地にた冷涼な風土に第二の安住地を見つけ馬鈴薯王国北海道の確固たる位置を築きました。

茎の頂部に十数個の花をもつ集散花序をつけます。 5弁の花冠からなる合弁花は、雌ずいを囲むように5本の雄ずいが配列。
バレイショ 男爵 2013.7.6
花色は品種によて異なりますが、白、青、紫などの寒色系、咲き初めは濃く次第に薄れていきます。 花は寒地ほど見事。 受精後、直径2cmくらいのトマトに似た果実をつけることもありますが、栽培上はまったく無用のものです。

<70年の歴史をもつ男爵薯、健在>
明治末期に、函館ドック社長で七飯町に農協も経営する川田男爵が輸入した「男爵薯」はあまりにも有名。 世移り人変わって70年有余年、男爵薯の名声は少しも変わっていません。 「紅丸」は昭和4年北海道農業試験場で交雑育成されたもので、人工交配によるものとしては、わが国最初の実用品種。 羊蹄山麓の試作から栽培が全道に普及し、大戦中は食糧増産に大いに貢献。 札幌から中山峠を越え留寿都村に入ると、右手に立派な顕彰碑が目に入ります。 イギリスから導入された「メークイン」5月の女王、とその名もすばらしく長くてやや扁平。貯蔵して甘味を増し、煮くずれがなく調理用として好評です。 「ワセシロ」は別の名を伯爵といわれているようで、肥大早く肌白で徐々に普及しつつある品種です。

低温や酸性土壌でもよく生育するジャガイモは、北国にとってはまさに天恵の作物。 大切に育みたいものです。
- ジャガイモは、いつまでも野菜であってほしい。 間違っても主食となる日が再び来ないように、と願ってこの稿を置きます--。
(札幌市農業センター 林 繁)

<余談:ジャガイモ品種 “男爵” について>
現在、食味が良くて全国的に作られているお米の銘柄は “コシヒカリ” ですが、私の若い頃、今から40年前のおいしいお米、高級米といえば “ササニシキ” というイメージがありました。 リンゴも昔は、“国光”や、真っ赤なリンゴをかじるとあの甘酸っぱさが口に拡がる “紅玉” を思い出します。 その頃は “ふじ” という品種は店頭に並んでいませんでした。 以前はイチゴといえば “宝交早生” でしたが、その後 “女峰”が出てきて、現在は “とちおとめ” でしょうか?
作物の品種の移り変わりは速いもので、イチゴは1品種20年といわれているそうです。 その点、ジャガイモ品種 “男爵” は 明治41年(1908年)に日本(北海道)に移入されて108年が経ちますが、現在でも、ジャガイモといえば “男爵” です。 この品種はなぜこんなに長持ちするのでしょうか?
その答えは、生産者にとって作りやすいこと、消費者にとっては美味しいこと、この二つの条件を満たすものが長持ちする品種のようです。 以下はウェブページ “  ジャガイモ博物館  川田男爵薯 ” の抜粋です。

「19世紀に見いだされた「男爵薯」がまだ我が国では人気が高い。最初は農家に好かれ、その後消費者に知られ、その嗜好性が支えたものと考えています。 まず農家に好かれた理由は、熟性が早生で、ジャガイモの大敵(カビ)の被害が大きくなる前に収穫できること、早生なので後作に秋まき小麦や野菜の導入が容易なこと、休眠期間が長く保管が容易なことにありましょう。  消費者には、ホクホク感が好まれ、貯蔵性があり、丸いもの中では芽が深く次に選択するときの目安になったものと思われます。

古い品種が主役なのは欧米も同じ
アメリカでは、1914年に見つけられた「ラセット・バーバンク」があります。これは見た目は悪いものの大きないもがたくさん取れて、しかも取扱いが楽なので農家にまず好まれ、さらにアメリカ人の大好きなフレンチフライにも適しているので、今でも人気1番の品種となり続けています。
オランダでも、学校の先生が育成し、クラスの可愛っこちゃんの名前を付けて1910年から売り出された「ビンチェ」が、その豊産性のためまず農家から受け入れられ、第一次大戦に普及し、その後パリでフレンチフライにも向くことわかったこともあって、今日でも癌腫病のでるドイツを除き、ヨーロッパ各地に広く普及しています。
ジャガイモには、主婦がスーパーで購入してくるものの外にいろいろの用途があります。北海道産の多くは片栗粉用に使われ、ポテトチップに回る量も多い。これらに使われるものは前者なら澱粉含有率が高いことが歩留りに影響しますし、後者なら加工歩留りよく、カラーのよいものが求められます。このためこれらの業務用に向く新しい品種が登場すると、容赦なくそれに変えられてしまいます。
しかし、「男爵薯」、「メークイン」といった生食用ジャガイモは、消費者の嗜好性で決まり、欧米でも見るようにその保守的嗜好性に支えられています。今後『ホクホクして煮崩れし難いもの』が開発され、消費者が見分けやすい特徴があればなおよく、栽培しやすく農家の利益にもつながる品種が出てくるまで大品種の座は揺るがないことでしよう。」

興味のある方は  →  http://www.geocities.jp/a5ama/e007.html

 

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