クリ  樹木の寿命(衰退から枯死へ) その2

樹木の寿命(その2)を書こうとしたのですが、このクリの樹齢はいくつなのか?、という基本的なことが分からないと話が進められないという思いになりました。 しかし、この樹を近くに行って確認したいと思うのですが、個人のものなのか?、それとも河川管理者のものなか?が分からないのでどうしようか迷っていたのですが、とりあえず、河川管理者に問い合わせてみると、現地を確認したいというのです。 その結果、河川管理者のものだということがわかりました。 それで切株の計測と近接での写真撮影ができたという次第です。
2020.4.24
その計測結果は以下の通りです。
・クリの切株の高さ    :1.6m
・幹径(高さ1.2m)  :84cm ✖ 86cm。
・大きい切株の直径と年輪:65cm ✖ 60cm、82年
・小さい切株の直径と年輪:46cm ✖ 43cm、71年
・主幹にはカミキリムシなどの穿孔虫によってできる穴は確認できなかった。

南の沢川沿いのクリの大きさが分かると、道内の大きなクリの樹齢や樹高、幹周はどれくらいなのだろう と比較をしてみたくなりました。 道内でクリの自生は道央以南で、樹齢と樹高及び幹周が分かったのは以下のとおりです。
◎ 道内にあるクリの大木(北海道及び市町村の保存樹木)との比較
・江別市 野幌森林公園内  推定樹齢500年 樹高18m、幹周455cm
(北海道保護樹木)
・七飯町 一本栗地主神社 推定樹齢600年 樹高15m、幹周480cm
(北海道保護樹木)
・札幌市 相馬神社  推定樹齢300年以上 樹高15~20m、幹周382cm
(札幌市保存樹木)
・江別市野幌代々木町 樹齢136年 樹高12m、幹周298cm(直径95cm)(江別市保存樹木)
・江別市文京台    樹齢91年 樹高20m、幹周180cm(直径57cm)
(江別市保存樹木)
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・南の沢川      樹齢82年 樹高15m以上、幹周267cm

道内のクリの保存樹(クリの中では数少ない超エリート的存在)を見ると、樹高は15~20m、最高樹齢で500~600年、樹齢が100年くらいなってくると、その地域では有名?貴重な存在(保存樹)になり得るようです。
幹周は樹齢を重ねるほどに大きくなる?長くなる?、これは当たり前ですが、
・600年 480cm
・500年 455cm
・300年 382cm
・136年 298cm
・ 91年 180cm
・ 82年 267cm
この数値を見ていると、本当に大まかなのですが、樹齢が100年前後になると幹周は約300cm、300年で400cm、500〜600年で450〜500cmで、幹が太くなるのは100年前後までのようです。 ピーター・トーマスは「オークは成長するのに300年、成長を止めて300年、死ぬまで300年」と言っていますが、これを道内のクリに当てはめると、「生長するのに100年、生長を止めて200年、死ぬまで200年」といったところでしょうか。
南の沢川のクリの年輪を見ると、生長が盛んで年輪の幅が広いのは40年くらいまでで、その後は年輪の幅はだんだんと狭くなっています。 この観点から、この樹の生長幅の最大域(高さと樹幅)は樹齢70年頃にはその域に達していたように思われます。 ピーター・トーマス流にいえば、この樹の生長期は70年で、所得の収支(光合成量と呼吸量)が赤字にならないまでも、徐々にプラスマイナスゼロに近づいてきている段階、なのではないでしょうか。

上記の新たに得た知見をもとに南の沢川沿いのクリの衰弱~枯死について迷想したいと思います。

2013.7.13
最初に写真を撮った7年前のこのクリは、一見健全で元気に育っているように見えます。 しかし、ピータートーマスのいう「死んだ枝がシカの角のように樹冠の先から突き出ている(写真赤丸の部分」ことから、人間で言えば40~50歳の中年のおじさんで、体のあちこちに不具合で出てくる頃で、樹木では樹体が一番大きく伸びきって生長が止まるころ、所得収支がとんとんか赤字(呼吸量が光合成量を上回っている)が始まる頃、終焉に向けての旋回が始まる段階のように見えます。
2014.9.6
その翌年は、前年に比べて樹冠全体の葉数が少なくなってきているように見えます。 病気か、害虫による食害か、それ以外の何かによるもので、成長期から停滞期への移行による現象、自然な衰退のようには見えないのですが。 2015.7.6
枝先の細枝の枯れが増えてきて、樹幹全体の葉のボリュームも少なくなっています。 2年前の同じ開花期の写真と比べて、明らかに枝葉が少なく全体がほっそりして衰退が始まっているように見えます。
この現象は、病害虫などによるストレスではない自然な衰弱へのサイクル(成長300年、生長を止めて300年、死ぬまで300年)からすると、その速度は極めて速く、おそらく何らかの病害虫の被害を受けている可能性が高いように思うのです。 2017.8.6
2015年7月6日から約2年後の樹姿。樹冠上部の枝葉の枯死が目立つようになり、明らかに枝葉のボリューム感がなくなっています。 そして、樹幹中央部に胴吹きが見られます。 樹木が胴吹きを出すということは、前回のブログで述べたように、樹幹上部の枝葉が少なくなって光合成量が減り、それを補うために胴吹きが出てくるのです。 このクリは完全に衰弱から枯死への道に進んでいるようです。

クリの大木を4~5年?数年かけて樹冠上部の枝葉を枯らせて衰退させるような病気又は害虫とは、どんな種類があるのでしょうか?

・このクリの切株にはカミキリムシなどの穿孔虫が空けた穴のようなものはなかったので穿孔虫の幼虫の食害による衰退ではなさそうです。
・樹木が枯死する原因で一番よく見かけるのは胴枯れによるものです。 アメリカにおけるクリの胴枯病は有名ですが、札幌周辺ではサクラやナナカマド、ツリバナなど樹肌が滑らかな樹種でよく見かけます。 この病気は、菌が形成層を破壊して起こるもので、それが幹や枝の全周に及ぶと上部に水が供給されなくなるため、その上部が枯れ上がり枯死するのです。 この病気が発生すると1~2年で樹木は枯死するので、このクリの衰退の原因には当たらないです。
・2014年8月に札幌周辺でマイマイガが大発生し、公園や自然林の樹木が丸裸にされる現象を見ています。 しかし、写真で見る限り、このクリにはその影響はなかったようです。

迷想をより深めるために病害虫の参考書をいろいろ当たってみると、それらしきものを見つけました。 以下は「果樹の病害虫診断事典」のクリタマバチに関する記述です。

クリの芽は3月下旬になると出芽し始め、4月になると展葉し始める(札幌市周辺では5月中旬以降に出葉)が、この時期に寄生を受けた芽は伸長せず、虫えいは平滑で光沢がある。  はじめ緑色であるが、日がたつにつれ赤みを帯びてくる。虫えいには矮化した葉が数枚集まってついている。
 この虫えいから、のちに成虫が穴をあけて羽化して出てくる。 その後虫えいは枯れてしまう。 このため、新梢が発生せず、雌花をつける結果枝ができないので収量は低下し、樹勢も弱くなり、年々衰弱する。 芽の位置によって、虫えいを生ずる比率が異なる。 頂芽および新梢の先端に近い脇芽では少なく、それより下部の脇芽で多く発生する。 
 新梢の基部に大型の虫えいができるもの、葉柄や葉脈上に小型の虫えいができるものなどいろいろである。

実際に近くでこのクリを見ていないのでただの推測でしかないのですが、クリタマバチがこのクリを衰退させる原因の重要な容疑者ではないかと思っています。
2019.6.23
2017年から2年後。 6月下旬での段階で樹冠の一部にしか葉がない状態です。
樹体の衰退が急激に進んだようです。
2018年9月上旬に台風21号が北海道西部沖を北上しています。 この台風は胆振東地震前日に北海道を通過した台風、札幌で最大瞬間風速33mを記録した台風、1954年の洞爺丸台風や2004年の台風18号にも匹敵する台風なのです。
樹木にとって9月上旬という時期は、そろそろ葉の養分を樹体内に引き戻す時期、 来年の芽出しから新葉を展開するために大切な養分を樹体内に蓄積する時期に当たるのです。 それが始まる時期に台風がやってきて、大小の枝をへし折り葉を引きちぎって通り過ぎたのです。
このクリにとって、数年来の病害虫による養分の蓄積が十分に出来ていないうえに、台風で決定的な追い打ちをかけられたのです。 2018年はこのクリにとってほとんど養分の蓄積が出来なかったのではないでしょうか? その結果が写真に写っている2019年6月の樹姿です。 枝先から葉を出す元気は当然、胴吹きさえも出せない状態になってしまったのです。
2020.4.17
南の沢川のクリは、樹冠(樹高と樹幅)が最大域に達し、成長期もそろそろ終わりを迎え成長を止める時期に入った頃で、もし、病害虫などに害されなければ、、ピーター・トーマスのいう成長を止める時期に入って、これから後100年や200年は生きることができたかもしれません。 しかし、その段階で致命的な病害虫に襲われて体力を失い衰弱が始まり、そんな中で、強烈な台風に襲われて完全に衰弱して枯死に至ったのではないか と迷想しました。

 

 

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