フキ

蕗のとう出て水仙にほひ
梅もほころび東風吹かば・・・・・・・

記憶のほどは多少怪しいけれど、かつての国語教科書の一節が、何となく40年を過ぎた今も脳裏に残っています。 北の冬は長く厳しい。 それだけに、ここに住む人たちの春へのあこがれは大きく、残雪の中に顔を出したフキのとうを見つけて歓喜を覚えるのです。
フキノトウ
2015.4.22

<わが国古来の野菜>
フキが野菜! 北国の人は、山野や路傍にあるこの植物をあまりにも見慣れているのです。 栽培は1000年以上も前にさかのぼり、最も古い野菜のひとつで、秋田、愛知、関西で多く作られています。
キク科多年草。 雌雄異株。 栽培種は雌株が多いと報告されています。 花が終わると、雌株は花茎を伸ばして盛んに毛を飛ばしますが、雄株はその必要がないのでしぼんでしまします。 独特の文化を持つアイヌは、勢いよく伸びる方を雄株、伸びないものを雌株と逆に信じていたそうです。
フキノトウ
2015.4.22
学名にもヤポニクス(日本産の、の意)<Petasites.japonicus:ペタシテス ヤポニクス>と記されているように、数少ないわが国特有の野菜で、北海道から九州まで自生しています。

フキノトウの花は雌雄異株だそうで、しかも、雌株には多数の雌花に混じって少数の不稔の両性花が、雄株では全て不稔の両性花からなるか、少数の雌花が混じることもあるそうです。 ということは、フキノトウの花を一見しただけでは、雄花か雌花か分からないということなのでしょうね。

<大きくて有名な秋田ブキ>
大きなものは人の丈を越え、葉の径は1m以上もあるそうです。 今から250年ほど昔、秋田の殿様が江戸城中で並居る諸大名を前に、お国自慢の大ブキの話をしたところ、一笑に付されて大いに立腹。早速飛脚を走らせて大ブキを取り寄せ、これを床の間に飾って、くだんの大名たちを招いて酒宴をはり屈辱をはらしたとか。 PRの効果はてきめん、以後広く全国に知られるようになりました。
秋田ブキに負けず劣らないのが足寄に産するラワン(螺湾―地名)ブキ※1,※2。足寄町は畑作と牛の里、というよりも、松山千春の出身地といった方が、若者にはわかりやすい時代かも知れません。
ラワンブキ
2010.8.10 北大植物園 人でも立っていると、大きさを比べることができるのですが・・・・。

※1 : 足寄町の螺湾川に沿って自生する螺湾ブキは高さ2~3mに達する巨大なフキ。かつては高さ4mに及び、その下を馬に乗って通ることができたというが、なぜ大きくなるのかはいまだに謎が多い。また、自生ブキの他にも、農業者が農産物として栽培ブキの生産を行っている。その味は繊細で、ミネラルが豊富で繊維質にも富む。地元では産学官が一体となった商品開発も進めており、足寄町オリジナルのブランドとして知名度を高めている。(HP北海道遺産)
※2 : アキタブキ(秋田蕗、 Petasites japonicus subsp. giganteus)とは、キク科の多年草であるフキの変種。 エゾブキ、オオブキとも呼ばれる。ラワンブキ(螺湾蕗)は、アキタブキの一種[。(ウィキペディア)

<薬石効あり、フキのとう>
フキのとうも早春の味覚※3です。 「農業全書」にも、――― 春銭ぶきの時、料理にめづらし。 花は薬用とし、みそとし、漬物とす―――とあり、別の書には、―――心肺をうるほし、五臓を益し、煩を除き、痰を消し、咳を治す―――と記され、明治のころまで漢方薬※4 として用いられていました。

※3 「春は苦味 夏は酢の物 秋辛味 冬は油と合点して食へ」と“食のことわざ辞典”にあるように、フキノトウの苦味は珍重されてきた。 フキノトウは生のままみそをつけて食べるが最高の春の味と食通人はいうが、刺激が少々強すぎる。ゆでて苦味を和らげ、細かく刻みみそなどをつけて食べる。(園芸植物大辞典)  

※4 フキの葉は、打ち身の湿布、ヘビの噛み傷手当てに使われてきた。 また、地下茎を乾燥し、6~10gを刻み取り、水10mmlで煎じてこし、水wを加えて服用すると、咳止め、去痰、解熱、胃健の効果があるという。(園芸植物大辞典)

最近では、いながらにして、年中好きな野菜が手に入ります。 品種改良も消費者の好みを先取りするほど進み、品質のすぐれていることと、種類の豊富なことで、日本の野菜は世界一でしょう。 しかし、ちまたでは、「野菜の味が変わった。 まずくなった」 という声も聞かれます。 フキ、ウド、タケノコ、など改良の進まない野菜の人気は依然として衰えていません。人は新しいものを求め続けていく反面、古いもの、変わらないものには、いっそうの郷愁を感じるものなのでしょうか。
春はもうすぐそこ、春の足跡が聞こえてきます。 「この春、小さなよいことがありますように」と、ひと冬雪に閉ざされていた北国の人たちは、この季節を待ち遠しく思うのです。
(札幌市農業センター 林 繁)

 

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