植物の耐寒性について(その1) 

札幌市及びその周辺に自生している植物の種類は、本州に比べるとそれほど多くはなく、樹木では高木と灌木を併せても100種を超えるくらい?、草花で600種前後なのでしょうか?  公園や個人の庭、園芸店などで見る植物は海外から入ってきているものが多いようです。 そこで問題になるのが、「これって外で育つの? 冬を越せるの?」という耐寒性の問題です。

園芸書に書かれている「寒さに強い・弱い」は東京以西の本州を前提にしているので、札幌では全く参考になりません。
では、「耐寒性」とはどういう意味なのでしょうか? 観葉植物、洋ラン類、アザレア等の花木など室内で育てる園芸植物の種類は多く、その植物にもそれぞれの適正生育温度=「寒さに強い・弱い」はあるのですが、札幌に住んでいる私の場合、その意味合いは、「樹木や草花などが屋外で冬越しできるかどうか?、春に再度芽を出して順調に育ってくれるかどうか?」ということになります。

この耐寒性を生物学辞典(岩波書店)で調べると、以下のように書かれています

耐寒性:生物が寒さ(低温)に耐えて生存できる性質。 通常は、低温を氷点以上と以下に分けて研究するが、それは生物の受ける障害の機構が両者で異なるためであり、後者はさらに耐凍性と凍結回避に分ける。 生物の耐寒性の高い状態をhardy、ごく低い状態を unhardyであるという。 動植物の場合、一般に夏季・活動期には unhardyであり、冬季・休眠期にはhardyとなる。

氷点以下の研究対象を耐凍性と凍結回避に分けていますが、この二つの語彙の意味を調べると、

耐凍性:氷点下の温度に曝された生物が、細胞外凍結あるいは器官外凍結を起こして氷点下の温度に耐えて生存できる性質。 凍結回避と共に生物の耐寒性の一つの機構。 細胞外に氷が形成されると氷表面の蒸気圧が細胞内の蒸気圧より低くなるので、細胞は脱水されて収縮し、細胞外の氷はますます成長する。 植物細胞ではしばしば細胞壁と細胞膜との間に氷ができ、凍結原形質分離を起こすことがある。 一般に細胞膜の水透過性の高い植物ほど耐凍性も高い。 脱水した細胞の浸透圧は上昇し氷点が下がるので、細胞内は凍結を免れる。 耐凍性の低い植物では細胞水の外に出て凍る割合が小さく(ジャガイモでは約50%、高い植物ではその割合は大きい(コムギでは90%)。 越冬生物では、ある原形質的条件が用意された場合には、その体内に凍害防御物質(例えばグルセロール)が蓄積されると耐凍性が非常に高まることが知られている。(生物学辞典;岩波書店)

植物は秋から冬にかけて寒さが増してくると、細胞内から水分を押し出し?(高校の生物で習った原形質分離)て、細胞膜と細胞壁の間に水を溜め込む?して細胞内の水分?溶液?濃度を高めます。 平たく言えば、砂糖水を温めて水分を蒸発させて水あめ状態にする、みたいなものでしょうか? そうすると、気温は氷点下になって細胞膜と細胞壁の隙間に溜まった水分は凍っても細胞内は凍らい  ということなのでしょう。

「シャクナゲなどで冬囲いをきちんとしているのに冬期間に花芽がやられて花が咲かないことがある」という話を聞くことがあります。

これは、樹木は冬(寒さ)に向かって徐々に耐寒性を高めるのですが、まだ十分にその準備が出来てない段階(冬囲いをまだしていない11月に急激な寒さがやってくるような、例年に比べて予想外の寒さ)でその寒さに襲われ、細胞内の水分?溶液?濃度が十分に高まっていなかったために凍ってしまった、ということなのでしょう。

凍結回避:氷点下に曝された生物が、積極的に外気温より体温を高く保つことにより、または過冷却により凍結を回避する現象。 元来凍結に耐えない組織でも、呼吸熱を利用して体温を高めることにより凍結を回避できる。 例えばザゼンソウの肉花穂の温度は外気温よりも高い。 一方、過冷却状態では細胞内が0℃以下に下がっても、凍結が防止される。 なお、凍結が起きても、形成される氷核が微細でかつ均質であれば、障害が回避されることも多い。 植物では均質核形成状態に保たれる最低温度は̠̠-38〜-47℃といわれている。(生物学辞典;岩波書店)

上文の「植物では均質核形成状態に保たれる最低温度は̠̠-38〜-47℃といわれている」の意味は、細胞内の温度がマイナスになって氷が形成されても、それが極々小さいものでむらなく一様な状態なら、-38〜-47℃になっても細胞内の組織は死なないで生きていられるということなのでしょう。
細胞内の均質核形成状態の具体的なイメージとしては、過冷却状態の水もとろっとしているそうなので、それはシャーベットのような状態?、それでは氷の粒がしっかり見えるので、ジェリー状というか、ゼラチンのようなものになっていることなのでしょうか。

厳寒期には札幌市の郊外でも気温は-20℃を下回ることもまれにありますが、道北や道東の内陸部では-30℃を下回る日が年に何回かはあるようです。
トドマツやエゾマツ、カンバ類やヤナギ類など、そのような極寒の地を生き抜いてきている樹木は、枝や冬芽の細胞内にある核や葉緑素などの組織を守るために、その周りの水分までも凍らせて(ジェリー状?にして)長い冬を乗り切るのです。

次回(その2)は、「耐寒性と寒乾害」についてです。

 

 

 

 

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