植物の耐寒性について(その4) ツツジ・シャクナゲ類 

札幌で見られるツツジ・シャクナゲ類の自生地と耐寒性(ハーディネス)

   樹種名 分布(樹に咲く花) ハーディネス 札幌での越冬性

 

   備考
キバナシャクナゲ 北海道、本州中部以北、千島、サハリン、カムチャッカ、朝鮮半島、東シベリア なし 耐寒性あり ⇒ キバナシャクナゲ
ハクサンシャクナゲ 北海道、本州中部以北、四国(石鎚山)朝鮮半島北部 なし 耐寒性あり ⇒ ハクサンシャクナゲ
アズマシャクナゲ 本州(東北、関東、中部地方南部 なし 耐寒性あり?(個人の庭で見かける)
セイヨウシャクナゲ 東アジアが中心で、北はシベリア〜南インドネシアに分布する種を交配 なし 原種、品種共に種類によってマチマチ ⇒ 西洋シャクナゲ(その1)
エゾムラサキツツジ 北海道、東シベリア、朝鮮半島北部、中国東北部、モンゴル Z5 耐寒性あり ⇒ 春を告げる樹の花(その2)
ムラサキヤシオ 北海道、本州(東北、中部の主に日本海側) なし 耐寒性あり
アカヤシオ 本州(福島県~三重県の太平洋側 なし 耐寒性あり?
(個人の庭でよく見かける)
⇒ アカヤシオ(その1):その花色が好きで
ヤマツツジ 北海道(南部)、本州、四国、九州 Z7 耐寒性あり、植栽場所による  ヤマツツジ
レンゲツツジ 本州、四国、九州、本道では南西部に自生しているといわれているが、自生地は不明(樹に咲く花) Z9 植栽場所による
エクスバリーアザレア ヨーロッパ、中国産、アメリカ産のツツジや日本のレンゲツツジなどをもとに改良された品種群の総称(北海道樹木図鑑) なし 場所による  エクスバリーアザレア
ミヤマキリシマ 九州(九重山、阿蘇山、雲仙岳、霧島山) Z9 植栽場所による
ヒノデキリシマ(キリシマ<クルメツツジ>)の改良種 九州 Z8b 植栽場所による
サツキ 本州(関東、富山以西) Z8 植栽場所による  サツキ
クロフネツツジ 朝鮮半島〜中国北部原産の落葉樹 Z4 耐寒性あり  ツツジにしては異色の名前です:クロフネ
ミツバツツジ 本州(関東、東海、近畿地方) なし 場所による  ミツバツツジ
リュウキュウツツジ キシツツジとモチツツジの雑種 なし 耐寒性あり、場所による  リュウキュウツツジ
ヨドガワツツジ 朝鮮半島 チョウセンヤマツツジの園芸品種で、雄しべが花弁化 なし 耐寒性あり  ヨドガワツツジ
ドウダンツツジ
本州(静岡、愛知、岐阜、紀伊半島)、四国(高知、徳島)、九州(鹿児島)
Z5 耐寒性あり   ドウダンツツジ 紅葉
サラサドウダン
北海道(西南部)、本州(兵庫県以北、四国(徳島)
Z5
耐寒性あり  

〇 札幌におけるハーディネス(Hardiness)と耐寒性(実際の越冬性)の関係性

ハーディネス  Z5 以下の樹種は、札幌の個人の庭や公園などでよく見かけるもので、 札幌で越冬し、耐寒性のある樹種でです。 その内のキバナシャクナゲ、ハクサンシャクナゲ、エゾムラサキツツジは北海道に自生しているので耐寒性があるのは当然ですが、一方、ドウダンツツジは本州の静岡以西に分布している樹種にも関わらず耐寒性があり。札幌で何の問題もなくに越冬します。
しかし、白いスズランのような花をつけるドウダンツツジは、一応ツツジの名前がついて同じツツジ科に属してはいるものの、サツキやカバレンゲのような筒状の大きな花弁をつける一般的なツツジの仲間、ロードデンドロン属(Rhododendron属)とは遠い関係?のツツジの仲間のようなので、同じレベルで越冬性、耐寒性を語るのは少し無理があるのかもしれません。

リュウキュウツツジについては、ハーディネスの記載がないので何とも言えないのですが、その親であるキシツツジとモチツツジの自生地は、前者が本州(中国地方)、四国、九州(北部)で、後者が本州(静岡・山梨~岡山)、四国なので、ハーディネスも関東以西に分布するツツジと同程度と推測されます。 札幌で見る限り、その耐寒性・越冬性はそれらに比べるともう少しあるように思われます。
昨年度(令和元年度)の札幌は降雪が少なく、灌木でも1月半ばを過ぎても寒風に晒されていました。 しかし、翌春には葉が褐色になったり、蕾が枯死して開花できなかったものもあったのですが、とりあえず、葉が枯れたのも部分的で、白い花を咲かせていました。
その耐寒性は、リュウキュウツツジの枝、葉、冬芽には茶褐色の比較的長めの毛が蜜に生えており、それが防寒の役目を果たしているのではないか と思っています。

ハーディネスZ8、Z9に属するサツキ、ミヤマキリシマ、ヒノデキリシマは、ときおり街中で見かけます。 特にサツキについては、ビルやマンションの外構植栽に使われるので頻繁に見かけます。 しかし、それらを見ていると、いつの間にかその場から無くなっているのに気付くのです。 おそらく、鑑賞に値しなくなって処分せざるを得なかったのでしょう。 昭和の終わりから平成初めにかけて新しく造成された公園に植えられたサツキやヒノデキリシマはとっくの昔に消えています。
ツツジ類の根は他の樹木の根に比べると特異的で、透明で細い繊細な根を持っていて、掘り上げると根が団子状態になります。 これらの根は乾燥に弱く、公園などで1日中根元に陽が当たるような場所に植えられたツツジ類は、数年もするとほとんどの株がなくなっていることが多々あります。 現在でも生きながら得ているツツジ類は、午前中だけ陽が当たるところや、高木の下に植えられているなど、地面が比較的乾燥しづらい場所に植えられているものが多いように思います。
ハーディネスがZ8、Z9に属するツツジ類は関東以西に分布するものが多く、成長期の6月は梅雨時で、7〜8月にかけては夕立や台風など十分すぎる程の水を浴びます。 一方、札幌を含めた北海道は、夏場の成長期間が短い上に、オホーツク海高気圧に覆われることが多く、7月には公園や河川敷の芝生が黄ばむほど雨が降らないことがあります。
ツツジ類の耐寒性を語る前段として、札幌の夏場はツツジ類にとって本来の生育を促すための十分な環境に無いように思うのです。 その意味では、個人の庭のツツジ類は、近くに建物があるので1日中陽が当たる環境ではなく、また、夏場に乾燥が続いた場合には潅水をしてもらえるなど、公園などに比べて夏場に十分成長できる条件が整っていて樹木の樹勢を保つことができ、冬囲いもしてもらえるので、冬越しもその体力で耐えられる可能性が大きいのです。

以上のことから、ハーディネス Z8、Z9 のツツジ類は、公園など環境の整わない場所では数年は生きながらえることはできても、その後は枯死する場合が多い(ほとんど)。 一方、個人の庭に植えられている類は、比較的長く生き延びているのです。

ヨドガワツツジは、札幌市内の公園で見かけるツツジで、ハーディネスの記載はないものの、ハーディネスZ8、Z9 のツツジ類に比べて十分な耐寒性を持っており、越冬性も高いようです。 ヨドガワツツジの分布域は朝鮮半島で、その中央に近いソウルやピョンヤンは、前者が仙台市、後者が秋田市と同じくらいの緯度に位置しています。 日本との違いは冬場は大陸性気候の影響をより強く受け、ピョンヤンの冬季(12月〜2月)の平均気温はマイナスで札幌と同程度の気温になり、しかも、降雪量が少ないので、そこに生息している植物は寒さに対する抵抗性を十分に持っているはずで、ヨドガワツツジが札幌の公園で生きながらえることができるのも当然かもしれません。

ヤマツツジの自生地は日本全国に分布し、北海道では道南で、エサンツツジが有名です。 なので、ハーディネスゾーンのZ7と耐寒性はあります、 しかし、個人の庭では立派に育っているものを見かけますが、公園などでは1日中陽が照るような、生育環境が厳しい場所に植えられているものは最終的に無くなっているものが多いようです。

シャクナゲ類については、キバナシャクナゲとハクサンシャクナゲは北海道に自生しているので耐寒性は十分にあり、生育環境を整えればどこに植えても育つようです。 アズマシャクナゲも個人の庭で見かけますので、キバナシャクナゲやハクサンシャクナゲほどの耐寒性はないにしても、札幌で十分育つようです。
一方、セイヨウシャクナゲは、東アジアの亜寒帯~熱帯?亜熱帯?まで広範囲に分布している原種及び品種を交配して作出されてるので、個々の種類によってその耐寒性(ハーディネス)は異なってきます。
また、シャクナゲ類は常緑性なので、耐寒性の高い種類でも通常の冬では葉に異常なく越冬するのですが、初冬期に異常な寒さに見舞われたり、例年になく降雪量の少ない年は、葉や花芽が枯死することがあります。

 

 

 

植物の耐寒性について(その3) ハーディネスゾーン(hardiness zone)

以下はアボック社から出版されている「日本名鑑」の植物耐寒ゾーン地図とその説明です。
ソース画像を表示
① この地図は、気象庁のデータを元に、各観測所における過去(1985年現在直近20~30年)の最低気温の平均値を算出し、USDA Hardiness Zoneに従って19のゾーンに分類したものを国土地理院の地図に重ね合わせたもの。
② 「日本名鑑」に掲載されている園芸植物の数(品種も含む)は6200種以上。 但し、ハーディネスゾーンの記載されていない種類も多数。

ハーディネスゾーンナンバーと温度hardiness_zone

3a:−37.2°C ~−40.0°C  4a:−34.4°C ~−31.7°C         5a:−28.9°C ~−26.1°C
3b:−37.2°C ~−34.4°C      4b:−31.7°C ~-28.9°C          5b:−26.1°C ~−23.3°C

6a:−23.3°C ~-20.6°C        7a:−17.8°C ~−15.0°C         8a:−12.2°C ~− 9.4°C
6b:−20.6°C ~−17.8°C       7b:−15.0°C ~−12.2°C         8b:− 9.4°C ~− 6.7°C

9a:− 6.7°C ~− 3.9°C         10a:− 1.1°C ~ 1.7°C
9b:− 3.9°C ~− 1.1°C         10b: 1.7℃~ 4.4℃

稚内;5、札幌;7b、東京;9a、大阪;9a、鹿児島;9b、那覇;11b

植物が寒さに対して露地栽培可能なゾーンをハーディネスゾーン(植物耐寒ゾーン)という。 すなわち、特別な防寒設備を施さなくても冬の寒い季節を生き延びられるかということで、当然ながら、植物の種類によってその耐寒温度は異なっている。 従って、これが問題になるのは、主に木本や多年草(常緑あるいは宿根~球根も含む)である。 つまり、好みの植物を庭に植えっぱなしにしておいてよいかどうか、である。「植物耐寒ゾーン地図」を利用すればその判断の目安が分かる。 そして、その土地の寒さに耐えられなければ、植栽を諦めるか何らかの防寒対策をとることになる。

 

利用の手順

① 植栽予定地のゾーンナンバー(a)を知る。
② 植物の特性情報のH;Hardiness に続けて示したその植物のゾーンナンバー(b)を確かめる。
abのナンバーの値を比べる。(a=b a≻b であればその土地寒さに耐えられる。)

例 居住地のゾーンナンバー:5
 (多年にわたる最低気温の平均値が-23.3℃~-28.9℃になることを意味する。 従って、単年では平均気値を下回ることもあることを忘れてはならない)
‘ b 植えたい植物のゾーンナンバー:4
 
(この植物は-28.9℃~34.4℃までの温度に耐えられることを意味する)
判定:a(5)>  b(4)なので、一応の目安として植えても大丈夫。

〇 植栽地を選ぶときの実際的ヒント
植栽地を選ぶにあたり、植栽地の地形、日当たり、風当たりなどの条件を考慮・加味すると、地図上のナンバーよりも、隣のナンバーを採用する方が適当な場合もある。
(1)乾燥気味の条件(土壌凍結を招きやすい過湿気味の条件よりもよい)。 たとえば、傾斜地、石垣の隙間、など。 また、日当たりの良い場所の石やコンクリートは日中に熱を貯めるので、夜間の気温低下を緩和する。

(2)建物の南側に植え場所がある。 屋根があればなおよい。 建物の南側は日当たりが良いので、より暖かい温度条件が得られるからである。 また、北風を防ぐので、寒害が緩和される。 張りだし屋根があると建物の暖気・保湿性の影響を受けることができる。

(3)斜面の中腹。 冷たい空気が滞留しないから、冷たい空気を防ぐ垣根などがあればなおよい。

(4)降雪条件。 深い雪の下は外気温の影響を受けにくく、「地図」上では耐寒温度を下回る地域でも、積雪地域であれば露地での冬越しが可能な場合がある。

これを「札幌にハナミズキを植える」に当てはめると、
a   居住地;札幌のハーディネスゾーンナンバーは6b(-17.8℃ ~ -20.6℃)となり、
b  植栽樹木;ハナミズキ の  H;ハーディネスゾーンナンバーは( -23.3℃ ~ -28.9℃)となります。

a(7b)>  b(5)なので、特別な防寒設備を施さなくても冬の寒い季節を生き延びられる ということになりまます。 しかし、札幌市内では冬場に最も気温の低くなる場所にある滝野すずらん公園のハナミズキは枝先の枯死もなく花を咲かせる一方、市内でも北風に晒されるような場所では、花芽や枝先の枯死が見られるものもあります。 このことは、上文(1)~(4)の中で、(2)が当てはまりそうです。 また、上文(2)の「屋根があればなおよい」には樹木なので無理がありますが、もし、建物のなど北風を防ぐものがない場合、防風ネットを張るなど何かしらの工夫が必要なようでです(特に幼木や植栽した最初の冬)。

次回、植物の耐寒性 その(4)では、札幌で見られるツツジ類の越冬性とハーディネスゾーンの関係を検討します。

 

 

 

 

 

植物の耐寒性について(その2) 耐寒性と寒風害

今から40年以上前、昭和50年代の話です。 現在は小金湯さくらの森公園(南区小金湯)として整備されていますが、当時は札幌市内の農業生産者の技術指導・支援施設、札幌市農業センターに勤務していたときの話です。 そこで、果樹の栽培を担当していました。 果樹園はリンゴや洋ナシを主体にサクランボやモモなどが区画ごとに植えてあるのですが、その区域を分けるようにブルーベリーが列状に植えてありました。植栽後10年程の、株高が約1.5mで、8月中旬にはたくさんの実が熟したのを憶えています。

そのブルーベリーは春になれば芽を吹き花も咲かせるのですが、雪から出た部分の枝が枯死してしまうのです。 それで耐寒性を調べようということになったのです。 調べる方法は
➀ 1月中旬に枝先を15cm程に切って、
⓶ その枝を温度を一定に保てる保冷庫に保管、
③ 温度設定は3段階で、
0℃、-10℃、-20℃又は、-5℃、-15℃、-25℃
※ 設定温度は正確には覚えていないのですが、おそらくこの辺りだと
④ それを半月後?に取り出して、水挿し
④ 新芽が伸びてくるのを確認して生死を判断

結果は、3段階ともすべて芽を出して白い花を咲かせました。 ブルーベリーは-20℃の寒さに長期間耐えることができるのです。 しかし、圃場で1月中旬には生きていた枝が春先雪の上に出た部分の枝先は枯死したのです。

これはどのような作用でこのようになるのでしょうか?

温度が低下することによって樹木に起こる障害(低温害)には、凍害、霜害、寒風害、寒乾(干)害、凍裂、凍上害などがありますが、上述のブルーベリー枝の枯死については、以下の3つが当てはまりそうです。

➀ 凍害:材木が耐凍性を獲得した後に耐凍度を超える低温によって細胞内の水分が凍結して起こる生理障害。 シベリア寒気団による寒波、夜間の放射冷却による低温が原因
⓶ 寒風害:耐凍性を獲得した後に冬季の季節風による枝葉からの蒸散促進により乾燥死する。
③ 寒乾(干)害:積雪の少ない土壌凍結のある場所で、樹木が耐凍性を獲得した後に風の弱い日溜まり地で日射融解により樹体の蒸散が進んで根からの水分供給が無く乾燥しする
(最新・樹木医の手引き)

しかし、
①の凍害については、実験で-20℃の保冷庫に半月間保管しても枯死しないので当てはまらないように思います。(小金湯の冬期間における最低気温が-20℃になることはあるかもしれないが、もしあっても数年に一度か年に1〜2回で、それも数時間である。 札幌の過去最低気温:1⃣-19.4℃(1978.2.17)、2⃣-19.2(1967.1.17)、3⃣19.1℃(1977.1.29)
③の寒乾(干)害は、道東の帯広や釧路等積雪の少ない地域に該当する低温害で、札幌のように積雪が1m前後になるようなところでは該当しないと考えられます。

ということは、➁寒風害となります。
上文で、「耐凍性を獲得した後に冬季の季節風による枝葉からの蒸散促進により乾燥死する。」とありますが、 厳寒期の樹木(落葉樹)は、細胞内を凍らないように濃度を濃くし、細胞膜と細胞壁の間は凍らせるので、水分の蒸発などないと考えますが、厳冬期に長期間寒風にさらされると樹皮から 水分が蒸発するようです。

積雪の少ないところで越冬中の草本植物や常緑広葉樹や針葉樹は、乾燥した風や日射にさらされるため水が奪われやすい。 ことに土壌が凍結し根から地上部に十分に供給されない状態では、越冬中の植物は水収支のバランスを失い乾燥害を受ける。 そのため越冬植物は低温順化の過程で、体の表面からの水分蒸発を防ぐ体制を作り上げる。 常緑葉は冬季に気孔を閉じるほか葉の表面のクチクラ層を発達させて葉の表面からの蒸散量を夏の1/3から1/4に抑える。 針葉樹の葉は、表面のクチクラ層を発達させクチクラ蒸散を抑え、さらに気孔を閉じ、その上を樹脂で固める。 広葉樹の越冬芽は、多くのりん片や托葉などで何層にも包み込まれ、その表面はさらにヤニや樹脂などで覆われる。広葉樹の若い枝も表面をパラフィン層やコルク層で覆い、枝の表面からの水分喪失を防ぐ。 低温順化の過程で、体内の細胞、組織、器官の耐凍度を高めてそれぞれの脱水耐性を高めるほか、このように体表面からの水分の喪失を防ぐ仕組みも作り上げる。
「植物の耐寒戦略」より抜粋;越冬植物の水分喪失防止作戦

冬季の厳寒期と言ってもいつもいつもマイナスの気温ではなく、日中陽が射す暖かい日は気温もプラスになります。 そうなると植物は生産活動?もするし呼吸もするのでしょうか。そのときは気孔?皮目?を開けて酸素を取り入れ、それと同時に蒸散も行われるのでしょうか。 しかし、根から補給される水分よりも寒風にさらされて蒸発する水分の方が多いため、だんだんと細胞内の水分が少なくなってきて最後は脱水状態になるのでしょうか?

6月に樹冠一杯白い花をさかせるヤマボウシと同属で北アメリカ原産のハナミズキという花木があります。 最近、個人の庭や公園で時折り見かけますが、この樹については、
「冬の寒さで枝先が枯れる、花が咲かない」
などの話を聞くことがあります。
079 アメリカハナミズキ2012.6.30
上の写真は、札幌の郊外にある滝野すずらん公園に植栽されているハナミズキです。この公園は札幌市中心部から南へ直線距離にして約15kmに位置し、標高は160〜320m)です。 札幌中心部より気温は2〜3℃は低く、札幌市の中心部では-20℃を下回るのは聞いたことがないのですが、ここではおそらく年に1〜2回はあるのではないでしょうか?
そんな場所でも、ハナミズキの花は咲いています。 じっくり冷えていく寒さに耐えうる耐寒性=耐凍性はあるようです。 ハナミズキの植えられている場所も滝の横のくぼ地で風の当たりにくい場所のようです。

札幌の街中で花の咲かない樹もあれば、滝野すずらん公園のように札幌市郊外の寒い場場所でも咲くハナミズキもあります。
おそらく、前者の植えられている場所は、北風を常時受けやすい場所に植えられていたのではないでしょうか? 寒風害ではないでしょうか?

北海道に自生している樹木はこの地方にあった耐寒性を持っていて、北風が常時当たるような場所に植えられても生きながらえることはできますが、成長が緩慢になります。 寒冷地において、風の有無は樹木の存続・生長に大きく影響するので、特に北海道に移入された樹木(耐寒性が微妙な樹木)にとって、冬季に北風を受ける・受けないは、次年度の成長(枝先が枯れる)や花が咲く・咲かないに大きな影響を与えることになります。

 

 

 

 

植物の耐寒性について(その1) 

札幌市及びその周辺に自生している植物の種類は、本州に比べるとそれほど多くはなく、樹木では高木と灌木を併せても100種を超えるくらい?、草花で600種前後なのでしょうか?  公園や個人の庭、園芸店などで見る植物は海外から入ってきているものが多いようです。 そこで問題になるのが、「これって外で育つの? 冬を越せるの?」という耐寒性の問題です。

園芸書に書かれている「寒さに強い・弱い」は東京以西の本州を前提にしているので、札幌では全く参考になりません。
では、「耐寒性」とはどういう意味なのでしょうか? 観葉植物、洋ラン類、アザレア等の花木など室内で育てる園芸植物の種類は多く、その植物にもそれぞれの適正生育温度=「寒さに強い・弱い」はあるのですが、札幌に住んでいる私の場合、その意味合いは、「樹木や草花などが屋外で冬越しできるかどうか?、春に再度芽を出して順調に育ってくれるかどうか?」ということになります。

この耐寒性を生物学辞典(岩波書店)で調べると、以下のように書かれています

耐寒性:生物が寒さ(低温)に耐えて生存できる性質。 通常は、低温を氷点以上と以下に分けて研究するが、それは生物の受ける障害の機構が両者で異なるためであり、後者はさらに耐凍性と凍結回避に分ける。 生物の耐寒性の高い状態をhardy、ごく低い状態を unhardyであるという。 動植物の場合、一般に夏季・活動期には unhardyであり、冬季・休眠期にはhardyとなる。

氷点以下の研究対象を耐凍性と凍結回避に分けていますが、この二つの語彙の意味を調べると、

耐凍性:氷点下の温度に曝された生物が、細胞外凍結あるいは器官外凍結を起こして氷点下の温度に耐えて生存できる性質。 凍結回避と共に生物の耐寒性の一つの機構。 細胞外に氷が形成されると氷表面の蒸気圧が細胞内の蒸気圧より低くなるので、細胞は脱水されて収縮し、細胞外の氷はますます成長する。 植物細胞ではしばしば細胞壁と細胞膜との間に氷ができ、凍結原形質分離を起こすことがある。 一般に細胞膜の水透過性の高い植物ほど耐凍性も高い。 脱水した細胞の浸透圧は上昇し氷点が下がるので、細胞内は凍結を免れる。 耐凍性の低い植物では細胞水の外に出て凍る割合が小さく(ジャガイモでは約50%、高い植物ではその割合は大きい(コムギでは90%)。 越冬生物では、ある原形質的条件が用意された場合には、その体内に凍害防御物質(例えばグルセロール)が蓄積されると耐凍性が非常に高まることが知られている。(生物学辞典;岩波書店)

植物は秋から冬にかけて寒さが増してくると、細胞内から水分を押し出し?(高校の生物で習った原形質分離)て、細胞膜と細胞壁の間に水を溜め込む?して細胞内の水分?溶液?濃度を高めます。 平たく言えば、砂糖水を温めて水分を蒸発させて水あめ状態にする、みたいなものでしょうか? そうすると、気温は氷点下になって細胞膜と細胞壁の隙間に溜まった水分は凍っても細胞内は凍らい  ということなのでしょう。

「シャクナゲなどで冬囲いをきちんとしているのに冬期間に花芽がやられて花が咲かないことがある」という話を聞くことがあります。

これは、樹木は冬(寒さ)に向かって徐々に耐寒性を高めるのですが、まだ十分にその準備が出来てない段階(冬囲いをまだしていない11月に急激な寒さがやってくるような、例年に比べて予想外の寒さ)でその寒さに襲われ、細胞内の水分?溶液?濃度が十分に高まっていなかったために凍ってしまった、ということなのでしょう。

凍結回避:氷点下に曝された生物が、積極的に外気温より体温を高く保つことにより、または過冷却により凍結を回避する現象。 元来凍結に耐えない組織でも、呼吸熱を利用して体温を高めることにより凍結を回避できる。 例えばザゼンソウの肉花穂の温度は外気温よりも高い。 一方、過冷却状態では細胞内が0℃以下に下がっても、凍結が防止される。 なお、凍結が起きても、形成される氷核が微細でかつ均質であれば、障害が回避されることも多い。 植物では均質核形成状態に保たれる最低温度は̠̠-38〜-47℃といわれている。(生物学辞典;岩波書店)

上文の「植物では均質核形成状態に保たれる最低温度は̠̠-38〜-47℃といわれている」の意味は、細胞内の温度がマイナスになって氷が形成されても、それが極々小さいものでむらなく一様な状態なら、-38〜-47℃になっても細胞内の組織は死なないで生きていられるということなのでしょう。
細胞内の均質核形成状態の具体的なイメージとしては、過冷却状態の水もとろっとしているそうなので、それはシャーベットのような状態?、それでは氷の粒がしっかり見えるので、ジェリー状というか、ゼラチンのようなものになっていることなのでしょうか。

厳寒期には札幌市の郊外でも気温は-20℃を下回ることもまれにありますが、道北や道東の内陸部では-30℃を下回る日が年に何回かはあるようです。
トドマツやエゾマツ、カンバ類やヤナギ類など、そのような極寒の地を生き抜いてきている樹木は、枝や冬芽の細胞内にある核や葉緑素などの組織を守るために、その周りの水分までも凍らせて(ジェリー状?にして)長い冬を乗り切るのです。

次回(その2)は、「耐寒性と寒乾害」についてです。