植物の耐寒性について(その2) 耐寒性と寒風害

今から40年以上前、昭和50年代の話です。 現在は小金湯さくらの森公園(南区小金湯)として整備されていますが、当時は札幌市内の農業生産者の技術指導・支援施設、札幌市農業センターに勤務していたときの話です。 そこで、果樹の栽培を担当していました。 果樹園はリンゴや洋ナシを主体にサクランボやモモなどが区画ごとに植えてあるのですが、その区域を分けるようにブルーベリーが列状に植えてありました。植栽後10年程の、株高が約1.5mで、8月中旬にはたくさんの実が熟したのを憶えています。

そのブルーベリーは春になれば芽を吹き花も咲かせるのですが、雪から出た部分の枝が枯死してしまうのです。 それで耐寒性を調べようということになったのです。 調べる方法は
➀ 1月中旬に枝先を15cm程に切って、
⓶ その枝を温度を一定に保てる保冷庫に保管、
③ 温度設定は3段階で、
0℃、-10℃、-20℃又は、-5℃、-15℃、-25℃
※ 設定温度は正確には覚えていないのですが、おそらくこの辺りだと
④ それを半月後?に取り出して、水挿し
④ 新芽が伸びてくるのを確認して生死を判断

結果は、3段階ともすべて芽を出して白い花を咲かせました。 ブルーベリーは-20℃の寒さに長期間耐えることができるのです。 しかし、圃場で1月中旬には生きていた枝が春先雪の上に出た部分の枝先は枯死したのです。

これはどのような作用でこのようになるのでしょうか?

温度が低下することによって樹木に起こる障害(低温害)には、凍害、霜害、寒風害、寒乾(干)害、凍裂、凍上害などがありますが、上述のブルーベリー枝の枯死については、以下の3つが当てはまりそうです。

➀ 凍害:材木が耐凍性を獲得した後に耐凍度を超える低温によって細胞内の水分が凍結して起こる生理障害。 シベリア寒気団による寒波、夜間の放射冷却による低温が原因
⓶ 寒風害:耐凍性を獲得した後に冬季の季節風による枝葉からの蒸散促進により乾燥死する。
③ 寒乾(干)害:積雪の少ない土壌凍結のある場所で、樹木が耐凍性を獲得した後に風の弱い日溜まり地で日射融解により樹体の蒸散が進んで根からの水分供給が無く乾燥しする
(最新・樹木医の手引き)

しかし、
①の凍害については、実験で-20℃の保冷庫に半月間保管しても枯死しないので当てはまらないように思います。(小金湯の冬期間における最低気温が-20℃になることはあるかもしれないが、もしあっても数年に一度か年に1〜2回で、それも数時間である。 札幌の過去最低気温:1⃣-19.4℃(1978.2.17)、2⃣-19.2(1967.1.17)、3⃣19.1℃(1977.1.29)
③の寒乾(干)害は、道東の帯広や釧路等積雪の少ない地域に該当する低温害で、札幌のように積雪が1m前後になるようなところでは該当しないと考えられます。

ということは、➁寒風害となります。
上文で、「耐凍性を獲得した後に冬季の季節風による枝葉からの蒸散促進により乾燥死する。」とありますが、 厳寒期の樹木(落葉樹)は、細胞内を凍らないように濃度を濃くし、細胞膜と細胞壁の間は凍らせるので、水分の蒸発などないと考えますが、厳冬期に長期間寒風にさらされると樹皮から 水分が蒸発するようです。

積雪の少ないところで越冬中の草本植物や常緑広葉樹や針葉樹は、乾燥した風や日射にさらされるため水が奪われやすい。 ことに土壌が凍結し根から地上部に十分に供給されない状態では、越冬中の植物は水収支のバランスを失い乾燥害を受ける。 そのため越冬植物は低温順化の過程で、体の表面からの水分蒸発を防ぐ体制を作り上げる。 常緑葉は冬季に気孔を閉じるほか葉の表面のクチクラ層を発達させて葉の表面からの蒸散量を夏の1/3から1/4に抑える。 針葉樹の葉は、表面のクチクラ層を発達させクチクラ蒸散を抑え、さらに気孔を閉じ、その上を樹脂で固める。 広葉樹の越冬芽は、多くのりん片や托葉などで何層にも包み込まれ、その表面はさらにヤニや樹脂などで覆われる。広葉樹の若い枝も表面をパラフィン層やコルク層で覆い、枝の表面からの水分喪失を防ぐ。 低温順化の過程で、体内の細胞、組織、器官の耐凍度を高めてそれぞれの脱水耐性を高めるほか、このように体表面からの水分の喪失を防ぐ仕組みも作り上げる。
「植物の耐寒戦略」より抜粋;越冬植物の水分喪失防止作戦

冬季の厳寒期と言ってもいつもいつもマイナスの気温ではなく、日中陽が射す暖かい日は気温もプラスになります。 そうなると植物は生産活動?もするし呼吸もするのでしょうか。そのときは気孔?皮目?を開けて酸素を取り入れ、それと同時に蒸散も行われるのでしょうか。 しかし、根から補給される水分よりも寒風にさらされて蒸発する水分の方が多いため、だんだんと細胞内の水分が少なくなってきて最後は脱水状態になるのでしょうか?

6月に樹冠一杯白い花をさかせるヤマボウシと同属で北アメリカ原産のハナミズキという花木があります。 最近、個人の庭や公園で時折り見かけますが、この樹については、
「冬の寒さで枝先が枯れる、花が咲かない」
などの話を聞くことがあります。
079 アメリカハナミズキ2012.6.30
上の写真は、札幌の郊外にある滝野すずらん公園に植栽されているハナミズキです。この公園は札幌市中心部から南へ直線距離にして約15kmに位置し、標高は160〜320m)です。 札幌中心部より気温は2〜3℃は低く、札幌市の中心部では-20℃を下回るのは聞いたことがないのですが、ここではおそらく年に1〜2回はあるのではないでしょうか?
そんな場所でも、ハナミズキの花は咲いています。 じっくり冷えていく寒さに耐えうる耐寒性=耐凍性はあるようです。 ハナミズキの植えられている場所も滝の横のくぼ地で風の当たりにくい場所のようです。

札幌の街中で花の咲かない樹もあれば、滝野すずらん公園のように札幌市郊外の寒い場場所でも咲くハナミズキもあります。
おそらく、前者の植えられている場所は、北風を常時受けやすい場所に植えられていたのではないでしょうか? 寒風害ではないでしょうか?

北海道に自生している樹木はこの地方にあった耐寒性を持っていて、北風が常時当たるような場所に植えられても生きながらえることはできますが、成長が緩慢になります。 寒冷地において、風の有無は樹木の存続・生長に大きく影響するので、特に北海道に移入された樹木(耐寒性が微妙な樹木)にとって、冬季に北風を受ける・受けないは、次年度の成長(枝先が枯れる)や花が咲く・咲かないに大きな影響を与えることになります。

 

 

 

 

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