イチョウ(その5):龍雲寺のイチョウ

札幌市北部、 北区篠路に龍雲寺というお寺があります。その寺の正面入口横、歩道の緑地帯に大きなイチョウの樹があります。高さ15m強、幅20m弱、目通り幹径1mくらいでしょうか。
1-005 イチョウ2014.9.13
遠くから見ると、一見、何本かの樹が寄せ集まっているように見えます。それくらい周囲を圧倒するボリュームがあります。
根元に、説明板が設置されており、それには、
1-006 イチョウ2014.9.13
「開山して100年を迎えた龍雲寺※1。篠路開拓者の心のよりどころとして、ともに歩んだこの寺に、鋤柄松太郎※2が新天地開拓の記念として植栽したと伝えられている。
このイチョウは、北海道自然環境保全条例に指定されている北区唯一の保存樹で、樹齢は定かではないが、100年を越していることは確かである。」
と書かれています。
※1:龍雲寺  明治19年(1886年)頃、村民によって創建
※2:鋤柄松太郎  明治初期に当地篠路に入植
鋤柄松太郎さんが、明治10年、20歳のときに入植し、50歳のときにこのイチョウを植えたと仮定すると、それは今から109年前。小さな苗木を植えたとしても、樹齢は110年を越えています。
1-013 イチョウ2014.9.14
このイチョウは、地際から高さ2.5~3.0m付近の位置で、直径20~40cmの幹枝が十数本に枝分かれています。近寄ると、このように扇型に枝が横に拡がっています。イチョウの樹というと、普段、見慣れているのが街路樹のせいか、主幹がまっすぐ上に伸びる三角錐をイメージします。また、本州のイチョウ(街路樹樹でない)もずんぐりむっくりタイプというより、縦に長い樹が多いように思います。しかし、ここのイチョウは、横に拡がっています。公園などにあるイチョウも、たまにこのような横に拡がるタイプらしきものもありますが、これほではありません。このようなタイプは、周囲に大きな樹がない、独立樹で見かけます。これと同じようなタイプにケヤキがあります。ケヤキも独立樹でこのような枝の張り方、(横にスマートな枝の張り方)をする樹を見かけます。
1-009 イチョウ2014.9.14
乳柱ができかけています。
イチョウは中国からの外来種なので、札幌には本州のように数百年~千年を経た樹はありません。青森の北金ケ沢のイチョウや仙台市にある苦竹のイチョウには数メートルもあるような乳柱が何本も垂れ下がっています。
龍雲寺のイチョウは樹齢100年以上と言われています。それでやっと、写真のように、乳柱ができかけています、道庁赤レンガ庁舎の前庭にあるイチョウは、大正14年(1925年、今から89年前、樹齢100年前後)に植えられたものですが、このような乳柱ができかけています。これが青森や仙台のイチョウの乳柱のように巨大になるには、数百年という歴史的な年月が必要なのでしょうね。
下記をクリックしてください。

青森 北金ケ沢のイチョウ

仙台市 苦竹のイチョウ
1-010 イチョウ2014.9.14
<余談;乳柱はなぜできるのか?>
このことについて調べてみました。それらしき回答が2件見つかりました。、一つは、“イチョウ(ものと人間の文化史)” 今野敏雄著、もう一つは、日本植物生理学会“みんなの広場”に、イチョウの乳柱について質問している人がいました。
1 イチョウ(ものと人間の文化史)
本書の著者は、「乳柱がなぜできるのか?」については、「今のところ、垂乳の発生発育の機構・機能などの起因や仕組みについては明らかになっていない。」と記していますが、その関連部分には以下のように書かれています。
「比較的古老のイチョウ樹の太い主側枝に下面に、鍾乳石状の樹瘤が垂れ下がって着生していることがあり、比較的雄株に多く見られる。日本ではこれを「チチ(垂乳)と呼び、豊乳や安産を祈願する信仰の対象にしているイチョウ樹が、全国的に多く見られる。
この特異な垂乳は変態枝・鍾乳枝・気生根などと呼ばれるが、向地性をもって下垂し、ある時は群をなして出現し、長さが2m以上、直径が30cm以上に及ぶことがある。伸びて地面に届くこと発根し、枝葉を出して主幹に添って合体したさまを示し、主幹に下部の肥大化とも見受けられる。
解剖研究によると、一般に垂乳は主枝の着幹部付近に多く発現し、その部位に深く埋もれた芽と結合した短枝があって、この成長にともない副次的に発生した垂乳も同時に進み、垂乳は厚い木質の柱になり、表面に小突起状に現れてくると言われている。
また、垂乳の内部組織は比較的柔らかく、澱粉を多く含むことが知られ、これは、抗外部環境(外部の環境条件に抗すること)の名残りの一つとして、原始性状であると言われている。
しかし一方、垂乳は病毒が誘発してできる一種の病理による形成とする説もあり、今のところ垂乳の発生発育の機構・
などの起因や仕組みについては明らかになっていない」。
2 日本植物生理学会“みんなの広場”
〇 質問 : イチョウの乳柱(気根)組織について  (登録番号: 0575)
イチョウの乳柱をカミソリで削ぐと、表皮の下に柔らかい組織が見えます。
その柔らかい組織の中に、小さな球状の粒が見え、中にゼリ-状の液体が
入っています。
この球状の組織は何んでしょうか、また、どのような機能を持ったもの
なのでしょうか。
〇 回答
神田さま
みんなの広場へのご質問有難うございました。神田さんのご質問の回答を先ず形態学の専門の方にお願いしたのですが、此の面での形態学の研究はあまりなされていないとのことで、ご回答を頂くことができませんでした。そこで、イチョウのことについて非常にこだわりを持っておられる、元東京大学理学部付属植物園園長である東大教授長田敏行先生にお廻ししました所、以下のようなご回答をお寄せくださいました。参考になれば幸せです。
柴岡 弘郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
長田先生からのご回答
まず、その組織が何であるかは分かりませんが、小生の知る限りのところは、以下の通りです。
1.乳柱は、俗に乳と呼ばれますが、現在気根という見方は余りなく、藤 井健次郎先生以来、茎の変形したものという考えが強いと思います。そして多分主軸 が何らかの理由で欠損したとき、それに代わって成長し、それが故にこの種が(中国に 残存し)今日に生き延びたと言うことを考えている人がおります。中国語では、樹瘤と いい英語では、Chichiといったり、Lignotuberといいます。
2.ハーバード大学のDel Trediciさんが、多少実験的な試みをしており、通常老木で見られますが、若い苗木でも見られ、茎を横にすると縦にするより多く形成され、その場所は茎の下部であることから、重力の影響があるのではと推定されております。
3.”小さな球状の粒が見え、中にゼリ-状の液体が入っています。”これらについて調べられた報告を知りませんが、2.に挙げたような理由で、Del Trediciさんは、多分炭水化物の転流産物が溜まっているのではと述べています。また、その形成には葉や茎の元気の良さが関係するとも言っております。
次の文献が参考になると思います。Ginkgo biloba -A global treasure. Ed. by Hori et al. Springer (1997)のP. Del Trediciさんの章です(pp.119)。
長田 敏行(東京大学)

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