ニセアカシア(その6):自衛隊隠蔽緑地

車で豊平川に架かっている五輪橋を渡って、左手にアイスアリーナを、右手に広々とした緑地が広がる真駒内公園を眺めてから国道453号を横切り、しばらく走ると地下鉄南北線高架手前約400mから左手に自衛隊真駒内駐屯地が見えます。その道路沿いに樹高15m前後ある大きなニセアカシアが立ち並んでいます。これに加えて、自衛隊真駒内駐屯地西側は真駒内曙団地と接しているのですが、そのジグザグに曲がった道路沿い約700m渡って大きなニセアカシアが立ち並んでいます。この自衛隊真駒内駐屯地の南西側を取り囲むように植えられているニセアカシアの列植を“自衛隊隠蔽緑地”と呼んでいます。

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ここのニセアカシアは道路の反対側にある住宅地とある程度の距離が保たれているために、剪定の機会も少なくニセアシア本来の樹形がよく保たれている植樹帯です。植栽後年数が経ち下枝がなくなって、自衛隊を隠蔽する本来の目的は果たしていないのですが、街中の豊かな“みどり”、緑地帯の機能は十二分に果たしているようです。
031 ニセアカシア 自衛隊隠蔽緑地2012.5.20
札幌市の街路樹台帳によれば、1974年(昭和49年)の調査時点で、樹木の大きさは、高さ(H)が8mで胸高直径(C)が8㎝のものが2本、H=10m・C=15㎝:86本、H=10m・C=25㎝:149本、H=10m・C=35㎝:38本と合計275本となってます。自衛隊隠蔽緑地の総延長が約1kmですので、全体を均すと植栽間隔は約3.6mになります。街路樹の植栽間隔は通常8mを基本としていますので、ここの植幅は街路樹に比べると1/2以下で、自衛隊を隠蔽しようとした意図がはっきりとうかがえます。
現在は、台風による倒木や病虫害が原因で伐採された樹も多く、全体の本数は相当減っています。
樹齢は60年生のニセアカシアが多いようです(平成20年度街路樹診断)。通常、街路樹で植える規格は幹周が10~15cm(直径(C)が3~5cm)、高さが3~3.5m位のものが多いのですが、その規格の実生からの樹齢は大体7~8年経っています。概算すると、ここの隠蔽緑地のニセアカシアは1960年代後半に植えられたことになります。
082 ニセアカシア 五輪通 赤字2012.6.17 五輪通沿いのニセアカシア
その当時は、1960年の安保闘争に始まり、その後次第に反戦・反政府を唱える学生運動が盛んになります。学生と機動隊(今ではほとんど使われなくなった言葉)との衝突をテレビニュースでたびたび見るようになります。そして、1969年の東大安田講堂事件、テレビの視聴率が70%を超えたと言われる1972年の浅間山荘事件で学生運動の終焉を迎えます。1960年代後半は学生運動がピークに達した時代でした。これらの時代背景を下に、行政が反戦・反政府を唱える学生運動の標的・破壊すべき象徴である自衛隊を少しでも目立たないようにするために樹木を植えたのでしょう。また、その当時は大気汚染など環境の悪化も社会問題化しており、1967年には公害対策基本法が制定された年であり、大気の浄化など環境を改善する意味でも、街中に「みどり」増やすことが緊急に必要とされた時代でもありました。これらのことが重なり合って、1960代後半に植栽されたのではないでしょうか。
020 ニセアカシア 自衛隊隠蔽緑地2012.3.1
では、なぜニセアカシアだったのでしょうか? 隠す目的からすると常緑系の樹木、夏冬問わず隠すことのできる、札幌ならニオイヒバやアカエゾマツ、トドマツなどのマツ類を植えるのが妥当と考えます。その理由は今となっては想像するしかありません。早急に隠蔽できて(これは早急に緑を増やすと同意語になる)、同一規格の樹木を大量にそろえられる樹種はニセアカシアしかなかったのではないでしょうか?昭和40年代は公害問題や自動車の排気ガスなど大気汚染が社会問題となり国を挙げて緑化に取り組み始めた時代でもあり、街路樹が大量に植えはじめられました。その当時、札幌で多く植えられた樹種は、ニセアカシア、プラタナス、ネグンドカエデ、ヤナギなどの成長が早く大気汚染など環境につよい樹種が植えられています。そのような背景と経緯をもとに、最も適した樹種がニセアカシアであったのではないでしょうか?
<追記 2014.1.28>
1960年(昭和35年)、札幌の木を選ぶために人気投票が行われました。ニセアカシアは、第1位で札幌の木になったライラックにおしくも僅差で2番目でした。現在は外来生物法で要注意樹種に指定され、邪魔者扱いにされがちなニセアカシアですが、その当時は人気があったようで、このことも、ニセアカシアが選ばれた理由の一つなのでしょうね
003 ニセアカシア 自衛隊隠蔽緑地 赤字2012.3.10
このように高さを抑える剪定がされることもあります。
しかし、今にして思えばもう少しいい名前を付けられなかったのでしょうか。時代背景があるにせよ、あまりにもあからさま過ぎます。その当時は現在の名称で全く違和感はなかったのでしょうが、時代は過ぎて、今はその当時のように自衛隊の存在意義を問うこともなくなっており、現在の中国や北朝鮮など近隣諸国の関係からすると、その重要性が増しているように思えます。いいかどうかは難しいところですが・・・・。実際、現状のニセアカシアは自衛隊を隠蔽していないし、それが問題なっているわけでもありません。街中の豊かな“みどり”として大いに貢献しているように思えます。“隠蔽”という言葉は、国のために働いている自衛隊さんに失礼だし、その意味でも名称を見直してもいいのではないのでしょうか?

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