昨年の9月22日に百合が原公園のロックガーデンの片隅に咲いているシクラメン(原種)を取り上げました。 シクラメンの秋咲き種(シクラメン ヘデリフォリウム;Cyclamen.hederifolium)です。
⇒ シクラメン 20年
2021.4.29
写真はシクラメン コウム(Cyclamen.coum) 草丈は10cm未満で、地面を被うように葉を拡げています。
秋咲き種の シクラメン ヘデリフォリウムと春咲き種の シクラメン コウムは混在して植えられているようで、一面に生えている葉すべてが、シクラメン コウムとは限らないようです。
というのも、昨秋見たときは、地面を被う葉数が少なく、一枚一枚の葉も小さかったので、その後の9月末〜10月までの寒さがくるまでに葉を成長させるのでしょう。
秋咲き種(シクラメン ヘデリフォリウム)は葉の成長と共に花を咲かせ、春咲き種(シクラメン コーム)は葉が成長した後に花を付けるようです。
2021.4.29
昨秋見たシクラメン ヘデリフォリウムは、花弁がキツネの耳のようにピンと立った細長い花でしたが、シクラメン コウムの花弁は円形に近く、花の形状も丸みを帯びています。
シクラメンの自生地は地中海の周辺(南ヨーロッパ、地中海に近い西アジア、北アフリカ)で、この地域の気候は、夏はほとんど雨が降らず、冬から春にかけてほんの少し降る程度(日本に比べて)で、夏場の気温は27~28℃、冬場は10℃前後です。
以下は地中海沿岸の3都市の気温と降水量を示したものです。
地中海地域にある都市の月別平均気温と降水量(理科年表)
・1981~2010年の平均、赤;気温、青:降水量
アテネ | ダマスカス (シリア) |
チュニス (チュニジア) |
札幌 | 東京 | ||||||
1月 | 12.0 | 76.0 | 6.0 | 27.7 | 11.8 | 58.2 | ー0.9 | 113.6 | 5.2 | 52.3 |
2月 | 12.0 | 48.0 | 7.8 | 33.0 | 12.2 | 50.2 | ー3.1 | 94.0 | 5.7 | 56.1 |
3月 | 14.2 | 29.3 | 11.2 | 20.1 | 19.0 | 41.3 | 0.6 | 79.9 | 8.7 | 117.5 |
4月 | 17.5 | 16.3 | 16.1 | 12.1 | 16.6 | 36.7 | 7.1 | 56.8 | 13.9 | 124.5 |
5月 | 21.6 | 10.5 | 20.9 | 8.4 | 20.4 | 25.7 | 12.4 | 53.1 | 18.2 | 137.8 |
6月 | 25.5 | 7.3 | 25.0 | 0.9 | 24.5 | 12.5 | 16.7 | 46.8 | 21.4 | 167.7 |
7月 | 27.8 | 0.6 | 27.0 | 0.0 | 27.6 | 5.1 | 20.5 | 81.0 | 25.0 | 153.5 |
8月 | 28.1 | 0.3 | 26.9 | 0.0 | 28.2 | 8.0 | 22.3 | 123.8 | 26.4 | 168.2 |
9月 | 25.8 | 6.5 | 23.9 | 0.4 | 25.2 | 46.2 | 18.1 | 125.2 | 22.8 | 209.9 |
10月 | 22.6 | 13.8 | 18.7 | 11.1 | 21.6 | 50.9 | 11.8 | 108.7 | 17.5 | 197.8 |
11月 | 17.7 | 43.1 | 11.8 | 30.6 | 16.7 | 57.6 | 4.9 | 104.1 | 12.1 | 92.5 |
12月 | 13.7 | 80.7 | 7.5 | 31.7 | 13.1 | 74.5 | ー0.9 | 111.7 | 7.6 | 51.0 |
19.9 | 337.4 | 20.7 | 176.0 | 17.2 | 466.9 | 8.9 | 1098.7 | 15.4 | 1528.8 |
この表を見ると、3都市とも真夏7~8月の2ヵ月間の月別総雨量が10mm未満で、シリアのダマスカスに至ってはまったく雨の降らない降水がゼロです。 地中海周辺地域の夏はカラッカラなのです。 そして、夏が終わり9月に入ると少しばかりの雨(日本比べて)が降り、これが翌春まで続きます。 この時期に葉を出し花を咲かせ、イモ(塊茎)を太らせるのです。 日本の一般的な植物とは全く逆のパターンで生活しているのです。
上文を書いていてふと思ったのですが、
シクラメンは、本来 の自生地とは天と地ほどの違いのある、植物が半年近くを雪の下で札幌という北国の環境で、とりあえず、冬を越すことができるという事実です。 このことは、シクラメンという植物は、寒暖、降水量の多少など環境の振幅(ふれはば)に対して相当の適応力があり、世界中のほとんどの地域で生育することができる植物のように思えるのです。
しかし、草丈が低く地面にへばりつくように生えているシクラメンの形状では、雨の多い地域に生える草丈の高い植物に負けてしまうので、もともと雨の少ない乾燥した地域にしか生存できなかったのでしょう。
札幌で春に咲く球根類(チューリップ、ムスカリ、ヒヤシンス、スイセンなど)の自生地は多くが雨の少ない地中海周辺地域や西アジアです。
それらの地域に生育する球根類は、札幌では秋に植え付け、樹木がまだ葉を広げる前に花を咲かせ、夏を迎える頃には葉は黄色くなって枯れて休眠します。 シクラメンもこれらの球根類と同じ性質、同じ生活様式の植物のようです。
シクラメンというと、晩秋から冬にかけてきれいに咲くシクラメンの鉢花を思い浮かべます。 また、原種シクラメンというと、あまり見かけない珍しさや希少性がある植物というイメージがあります。
しかし、チューリップやスイセンなど普段街中でよく見かける球根類と同じ地域に生育し、同じ生活様式であることが分かると、それらの球根類に申し訳ないのですが、なんだかシクラメンの希少性が失われた感じがして少々がっかりした気分です。