てんぐす病(その2) 小金湯さくらの森公園

前回の投稿 (5月12日;てんぐす病 サクラ類 小金湯さくらの森公園)で、金田氏及び当公園管理者と供に、てんぐす病の発病状況を見て回ったことを紹介しましたが、今回(5月16日)は金田氏の指導の下、てんぐす病に罹った枝の除去(剪定)作業について投稿します。

小金湯さくらの森公園には約800本のサクラ類が植えられているのですが、その半数がエゾヤマザクラで、そのほかにソメイヨシノ(20本)とチシマザクラ(64本)が植えられています。 サトザクラ類(ヤエザクラ)は、ナデンやアマノガワなど9品種、約200本余が植えられています。
その内、てんぐす病に罹った樹種はエゾヤマザクラとソメイヨシノのみで、チシマザクアとヤエザクラには罹病株はありませんでした。 剪定除去した本数は12~13本です。
2024.5.16
樹種はエゾヤマザクラ。 一見、元気そうですが、右側の高く細長く伸びた枝がてんぐす病に罹っているように見えます。
2024.5.16
剪定後の樹姿。樹冠の2/3を除去。 主幹1.5mの高さに、上部を切り取った黄色の切断面が見えます。 サクラ類は切断面の癒合が遅く、その部分から腐朽する場合があるので、 殺菌剤のトップジンMペーストを塗布しています。
2024.5.16
主幹を切断したエゾヤマザクラの枝葉。 葉の一部が病変で褐色になっている。
2024.5.18
この枝の葉裏には白色化している部分や褐色になって縮れている葉もあります。

今回の罹病枝の除去剪定で、すべての枝にこのような病変葉が見られました。 切除した枝は園外に持ち出して処分。

 てんぐす病 サクラ類 小金湯さくらの森公園

 

<余談>
同公園では、エゾヤマザクラの見頃はすでに終わっているのですが、ちょうど今,ヤエザクラが見頃を迎えています。 ヤエザクラの品種(ナデン)の見頃は過ぎてしまいましたが、フゲンゾウとアマノガワが満開を迎えていました。

2024.5.16
サトザクラ 品種名;フゲンゾウ(普賢象)

2024.5.16
サトザクラ 品種名;フゲンゾウ(普賢象)
名前の由来は、花の中央から出ている雌しべの先端が曲がっており普賢菩薩の乗る白の鼻に似ているためと言われている。

2024.5.16
サトザクラ 品種名;アマノガワ(天の川)
枝は上へ伸びて横には広がらず、樹形はコンパクトにまとまる。 切り花用に栽培されている。
2024.5.16
サトザクラ 品種名;アマノガワ(天の川)
サクラでは珍しく花を上向きに咲かせ、桜餅のような甘い香りがする。

2024.5.16
サトザクラ 品種名;ギョイコウ(御衣黄)

2024.5.16
サトザクラ 品種名;ギョイコウ(御衣黄)
開花直後の花は淡い緑色、徐々に黄色に変化していき、やがて花びらの中心部が赤く染まる。 同公園にはギョイコウと似た緑色の花を咲かせるウコン(鬱金もある。

 

 

てんぐす病 サクラ類 小金湯さくらの森公園

4月下旬に小金湯さくらの森公園の管理者から、
「てんぐす病が少し出てきているので見てほしい」
との電話があり、「小金湯サクラの森に関する報告書」を供著した金田氏;北海道のサクラの第一人者(緑の総合研究所/グリーンコンサルタント)並びに同公園管理者と一緒にサクラの状況を見て回りました。
2014.5.6
写真はソメイヨシノ(天神山緑地;豊平区)で、春先、まだ新芽が出ていないときの樹姿です。サクラ類の中でソメイヨシノはてんぐす病がつきやすい種類と言われています。 写真のように、まだ葉の出ていないときは、枝が密生して団子状若しくは箒状になるので、てんぐ巣病とすぐ分かります。

2014.5.4
エゾヤマザクラ?(真駒内公園;南区)

写真のてんぐす病に罹ったサクラは、枝から多数の小枝が出て箒状に、その基部がふくれてコブ状になっています。 この奇形症状は、カビ(菌類)、※ファイトプラズマやウィルスがなどが原因で起こりますが、サクラの場合はタフリナ属のカビ(糸状菌)が原因です。 このカビがサクラに侵入してオーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンを産生することで、サクラの樹体内の植物ホルモンのバランスが崩れて、そのことがこのような奇形枝を生じさせるのだそうです。
この症状が出た枝には花が咲かないので直ぐわかります。

※ファイトプラズマ;植物に寄生して病害を引き起こす一群の特殊な細菌
2024.5.9
しかし、写真のエゾヤマザクラ(小金湯さくらの森公園)ように新葉が出てきてしまって、通常のエゾヤマザクラに比べて樹形が縦長で枝も蜜に混んでいて、てんぐす病に罹っている可能性はあるけれど、はっきりと分からないという場合があります。

2024.5.9
エゾヤマザクラ又はソメイヨシノ
この写真は、上述の縦長のサクラの枝ではないのですが、てんぐす病に罹った葉の症状です。
症状は、葉は萎れたような状態で、葉脈に沿って盛り上がったりと奇形なり、部分的に黒ずんだり、葉の表面が褐色を帯びるなどの症状を呈します。
2024.5.9
エゾヤマザクラ又はソメイヨシノ
また、葉裏は白っぽい症状を示します。
この症状が進行すると、葉は褐色になり最後は枯れてしまします。

てんぐす病に罹ったサクラでは、新芽が出ると同時にカビ(菌)が活動を始め、周囲に胞子を飛散させます。 そして葉が褐色になって枯れるころに胞子の飛散は最も多くなります。
なので、てんぐす病に罹った枝の切除(膨らんだこぶの分も含めて)は、胞子の飛散が始まる前の春先になります。

 

雪虫  

冬の訪れ、初雪を知らせる雪虫が今札幌でとんでもなく異常発生しています。
4日前の午後3時過ぎ(2023.10.24)に買物に出かけるために自転車に乗ったとたん、顔にプチプチと小さなものが当たります。太陽光線に当たって大量の雪虫が無軌道に飛び舞っているのが見えます。メガネをかけているので目には入らなかったのですが、上着やズボンには雪虫があちこちにくっついています。 2023.10.26
ズボンにぶつかって生地にへばりついている雪虫
毎年10月の温かい日差しの日に発生?出現?します。ところが今年は10月も末、しかも、例年にないこの異常な多さは私にとって今までにない経験です。 テレビ等の報道によると、ここしばらくの暖かさと、9月初めまで続いた熱帯夜など今夏の高温(異常気象)も大きく影響していると話していました。
ちなみに、我家に近い豊平川沿いの山肌がやっと黄葉の見頃を迎えました。30年程前は10月の上旬~中旬だったのです。 これも異常気象の主要因である温暖化の影響でしょう。
2023.10.26

〇 雪虫について
雪虫とは、アブラムシのうち白腺物質を分泌する腺を持つもののことを指すようですが、私のズボンにくっついた虫は腹に白い綿毛を持っていない雪虫?、ただの虫?でした。 何という種類のアブラムシなのでしょうかね? 雪虫で有名なのが※トドノネオオワタムシですが、この時期、お腹に白い綿を持つトドノネオオワタムシ以外に、綿毛を持たないアブラムシも空を舞う?浮遊するのです。 パソコンで「雪虫」を検索すると、ケヤキフシアブラムシやリンゴワタムシの名が出てきました。 もしかして、これらが綿毛を持たな種類かもしれません
※トドノネオオワタムシ;トドノネはトドマツの根の意味
ウィキペディア;トドノネオオワタムシより2015.7.5
ケヤキフシアブラムムシ;ケヤキの葉についている 虫えい(赤い玉のようなもの、虫こぶ)の中にアブラムシの幼虫が生息
※ 雪虫は、野菜や草花などの葉や茎にくっついて植物の養分を吸って生きているあのアブラムシと同じ仲間。

トドノネオオワタムシなどの雪虫の特徴は、季節により生活場所を変えることです。 トドネノオオワタムシは、ヤチダモやハシドイなどのモクセイ科の樹木とトドマツを、ケヤキフシアブラムシは、ケヤキとタケやササ類を交互に移動するようです。

雪虫で最も知られているトドノネオオワタムシの生活史(1年)は以下のようです。

① 春;ヤチダモなどのモクセイ科の幹や根で越冬した卵からメスの幼虫が孵化(ふか)し、新芽の葉裏に寄生
②春; 新芽に寄生したアブラムシの幼虫は5月中~下旬頃?に大型の羽のない成虫(幹母)になる
③夏;幹母は単為生殖(交尾をしないで雌単独)で多数(すべて)のメスの幼虫を生む
④夏; 幹母から生まれたメス幼虫は、幹母がつくる虫こぶ(葉にできる)のなかで成長し、すべて羽のある成虫になる
⑤夏;この成虫はヤチダモからトドマツに移動
⑥夏;トドマツに移動してきた羽のあるアブラムシの成虫は、トドマツの根元や地中の根に寄生、そこで数世代を経過し、単為生殖で増殖する
⑦秋;単為生殖で生まれたメス幼虫は、羽のある成虫になる
⑧ 秋;羽のあるメス成虫は、トドマツの地際から現れて、再び飛び立ってヤチダモに移動
⑨ 秋;そこで(ヤチダモ)、単為生殖により有性虫(オスとメス)が生まれる
⑩ 秋;有性虫は交尾して、樹皮の割れ目や冬芽などに産卵後息絶える

トドネノオオワタムシは、人間など動物では考えられない変節?を経て1年を終えるのですが、「それでは何故、トドノネオオワタムシは冬が間近に迫る秋口に集団で空中を舞うのでしょうか?
上述の⑩に「有性虫は交尾して、樹皮の割れ目などに産卵して息絶える」とありますが、彼らは種の保存のため、交尾をするために空中に舞い上がって出会いを求めるのです。

 

 

エゾシロチョウ  ボケ   

2016.5.17
我家の近くにあるショッピングセンターの植込みのボケ。 ボケの株の上部に花が咲いていません。 その原因はエゾシロチョウが花芽と新芽を食い荒らしたからです。 2016.5.17
写真の白い糸の塊はエゾシロチョウの幼虫が越冬していた巣で、エゾシロチョウはそこから出てきて、ボケの新芽をたらふく食べて大きくなって、今ちょうど休憩しているところでしょうか?
 
2018.5.27
上の写真は2016年、この2枚の写真は2018年と上下で年度に違いはありますが、5月下旬になると幼虫から蛹に変態する時期のようです。
2018.5.27
写真中央に薄黄色の小さな卵のようなものの塊が見えます。
当初、これはエゾシロチョウの卵ではないか?と思ったのですが、エゾシロチョウは幼虫で越冬するので、この塊はその卵ではないらしいのです。
それで、調べてみると、
この卵ようなものはアオムシコマユバチというハチの蛹らしいのです。 つまり、このハチの成虫がエゾシロチョウの幼虫に卵を産み付けて、その卵はエゾシロチョウの体の中で幼虫になり、体内の養分を食って成長し、その体内から出てきて蛹になるらしいのです。 それが薄黄色の塊なのです。 2018.6.22
そして、6月下旬近くになると、エゾシロチョウの蛹、黒くなった蛹がボケの枝に数珠のようにつながって並んでいます。 この黒い蛹はチョウに羽化しきれなかったもののようです。 ハチの幼虫に体内を食い荒らされたエゾシロチョウの幼虫はかろうじて蛹になったものの、羽化までには至らなかったのでしょう。
写真上部に長い触覚を持った小さなハチが見えます。 これが黄色い塊からので羽化した アオムシコマユバチの成虫なのでしょうか? 2019.5.30
エゾシロチョウが蛹から羽化してようとしてます。 その左横には羽化したばかりの成虫も見えます。 黒っぽい蛹は、ハチに卵を産み付けられて羽化しきれない、おそらくすでに死んでしまっているものなのでしょう。 2019.5.30
写真中央と右側のエゾシロチョウは2匹が上下に重なっています。 交尾をしているところのようです。 手で触れても全く動きません。 周りのボケの枝を見るとあちこちで交尾をしているエゾシロチョウがいます。 それにしても蛹から成虫になって、その直後に交尾とは!!。 すこし辺りを飛び回ってみたらと思ってしまいます。 人間の目から見ると、なんと急ぎ足の人生?虫生であることか。

アオムシコマユバチのように、ハチの生涯(生活史)の中で他の動物や植物に寄生して生活する部分を持つハチを寄生バチというそうです。

〇 エゾシロチョウ
加害樹種 : サクラ、エゾノコリンゴ、サンザシなどバラ科樹木
特徴   : 幼虫は体長最大40mm。 体一面に細い白毛が密生し。 背中は黒く、茶色の縞が2本ある。
生態   : 年1回発生。幼虫で越冬で、芽吹きとともに活動を再開し、枝上に糸を張り巡らせ、食樹の新芽や若葉を集団で食い荒らす。 毒毛はない。 市街地や公園でときどき多発する。
防除   : 幼虫は葉を糸で枝に結びつけて越冬するので、冬季に枝上お枝葉を除去する。
(北海道 樹木の病害・虫害・獣害)

< 追記 >
エゾシロチョウに新芽を食い荒らされたボケは今後どうなるでしょうか? 心配はいりません。 再度新芽出して、夏場には葉で被われ、普通?の株になります。 しかし、今春見たときは、ほとんど花は咲いていませんでした。

 

 

 

 

こぶ(その5) アグロバクテリウム(その2)

こぶ(その4)で、樹木の主幹に大きなこぶをつくる犯人は、土壌細菌のアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens:アグロバクテリウム ツメファシエンス、又はRhizobium radiobacter:リゾビウム ラジオバクター)であることが判りました。
名古屋大学の町田先生の話によると、
アグロバクテリウムは土壌細菌なので、根で感染し、それが維管束、細胞間隙を伝わって植物の体内を動き、傷ついた細胞に出会うと感染し、細胞増殖を誘発し、こぶができるのではないかと考えている とのことです。

ニセアカシアなど老木に見られるこぶは、当初は根や地際で感染し、アグロバクリウムが維管束や細胞間隙を伝わって樹幹の上の方まで上がり、こぶができるようです。


ネグンドカエデ 真駒内公園  ポプラ 道庁?      リギダマツ 中島公園

それでは、このアグロバクテリウムという土壌細菌は、どのような植物に病気を発生させるのでしょうか
最も有名なのが、バラの根につく根頭がんしゅ病です。
以下はタキイ種苗のホームページから引用しています。
根や地際茎部、接ぎ木部に、表面がごつごつした大小さまざまなこぶを生じる。こぶは初め白色で、徐々に乾固して黒褐色のざらざらしたこぶとなり崩壊する。侵された株は周囲の株に比べ生育が若干劣るため、次第に競争に負けて、枯死する。
病原はアグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)という細菌の一種で、1~3本の鞭毛を有する1~3×0.4~0.8μmの棹状細菌である。14~30℃で生育し、適温が22℃、死滅温度は51℃。多くの作物に本病を引き起こす多犯性の細菌である。

 病原細菌は傷口から侵入し、土壌伝染、接触伝染によって広がり、土壌中に長く生存する。したがって発病株は全身が汚染されている場合が多いので、接ぎ木用の母木には用いない。また、汚染株を切ったり、掘り起こしたりした刃物やスコップなどに病原細菌が付着して、健全株の切り口などを次々に汚染する。

タキイ種苗はタネを販売している会社なので、“ 多くの作物 ” と書かれていますが、調べてみると、発芽したときに2枚の葉が出てくる双子葉植物や一部の裸子植物と単子葉植物はこの土壌細菌の餌食?対象になるようです。 ということはほとんどの植物がこの細菌に侵されるということです。

アグロバクテリウムはリゾリウム属に属するのですが、リゾリウム属の中には、空気中の窒素を固定して植物の根と共生する細菌=根粒菌があります。 作物ではダイズなどの豆類、樹木ではニセアカシアやフジなどがマメ科植物が良く知られています。
同じリゾリウム属で、他の植物と共生して窒素を供給する有益な働きをする細菌がいる一方、もう一つは根にこぶを作って宿主を弱らせる作用をする細菌がいることです。 同属の近縁種が同じようなこぶ(ゴール)を作るのですが、宿主にとって全く正反対の作用をもたらすのは、皮肉というか面白いものです。

さらに面白いのは、植物に悪さをするアグロバクテリウムが、最近の遺伝子組み換え技術には重要な道具?資材?方法?になっていることです。 作物の品種改良、例えば作物に耐病性を付与したり、甘味があって美味しい品種を作出など、その中で最も有名で問題になっているのは、この技術を使って(おそらく)作られた農薬をかけても枯れない農薬耐性のある遺伝子組み換えダイズです。 このように、アグロバクテリウムは、植物の形質を変える遺伝子組み換えに広く利用されているのだそうです。

アグロバクテリウムをウェブページで調べる(コトバンク)と、
植物に対して病原性をもつグラム陰性菌一群総称プラスミドのはたらきにより、自身のDNAを植物体に送り込み、形質転換を生じさせる性質がある。外部から特定の遺伝子を組み込むトランスジェニック植物作出に利用される。

と書かれているのですが、グラム陰性菌、プラスミド、トランスジェニック植物など見慣れない用語が並んで、理解できたようなできないような、いまいちはっきりしないのですが、分かりやすく言うと、植物細胞に感染してDNAを送り込む(形質転換)性質がある ことのようです。

南区に自衛隊の真駒内駐屯地があります。 その南西側境界沿いに昭和40年代に植えられたニセアカシアが列植されています。 樹齢は60年前後と思われます。 それらのニセアカシアの主幹にこぶを見つけることができます。 こぶ(その4)の冒頭の画像がそれです。
真駒内方面をサイクリングするときに、これらのこぶをたまに見るのですが、その大きなこぶの中にアグロバクテリウムという土壌細菌がいて、それらは大豆などにつく根粒菌と近縁種で、さらに、人類の先端技術:遺伝子組み換えに重要な役割を果たしていると考えると、今度見るときは、あの異様で醜いこぶに対して見方が少し変わっているのかもしれません。