チューリップの球根を秋に植えると、翌春に花が咲きます。ムスカリやスイセンなどの他の 秋植え球根類も秋に植えると翌春に花を咲かせます。 うっかりチューリップの球根を秋に植えるのを忘れてしまって、春に植えても花はその年の春に咲きます。 それは、球根の中に花芽ができていて、暖かくなるとその花芽が成長して球根から伸びだして花を咲かせるのです。 この現象は他の秋植え球根でも同じように起こります。
チューリップは、札幌の場合、雪解け後春早く4月上中旬から葉を出し、5月中旬~下旬に花を咲かせ、7月に葉が枯れるまでの間に球根を太らせて、その中に来年の花芽を準備するのです。
このことが頭に刷り込まれていたために、勘違いをしたことがあります。
私は豊平公園の緑のセンターで相談員をしているのですが、夏半ばを過ぎた頃に、
「カンナの花が咲かないのはどうしてか」
という質問を隣に座っている相談員が受けていました。
その電話でのやり取りを聞いていると、相談者は
「葉はすごく立派に成長しているのだが、花が全く上がってこない」
とカンナの生育状況を説明、
「肥料をやり過ぎると栄養成長が勝り。花が咲き実が生る生殖成長が抑えられることがある」
というような内容で答えている相談員の声が聞こえてきました。 電話が終わってから、
「球根類は球根の中に花芽をつくるので、花が咲かない原因は別にあるのではないか」と私の考えを述べると、
「そうなの?」といまいち納得のいかなそうな生半可な答が返ってきました。それで、こちらも心配になってカンナの花芽分化について調べてみました。
答えは、
「カンナは春に球根(根茎)を植えて芽を出して成長し、茎が伸びてその先端に花芽を形成する」
です。
カンナは球根内に花芽をつくらないのです。 上述した「球根類は球根内に花芽を持っている」という私の思い込みが間違っていました。 確かに、カンナは夏から初秋にかけて次から次に花が咲き続けるので、球根にある花芽だけでは咲き続けられる訳がないですよね。
球根類の花芽について調べていると、いろいろなことが分かってきました。
球根類は植込み時期が、①秋植え、②春植え、③夏植えの3パターンがあります。
① 秋植え球根は秋に植えて春に花が咲く種類で、チューリップ、ヒヤシンス、クロッカス、ムスカリ、ヒヤシンス、オキザリス、スイセン、ジャーマンアイリス、シラー、アリウム、 チオノドグサ、アスストロメリア、スノーフレーク、スノードロップ、ユリ
② 春植え球根は春に植えて夏に花が咲く種類で、アマリリス、ダリア、カンナ、カラー、グラジオラス 、球根ベゴニアなど
③ 夏植え球根は夏に植えてその年の秋に花が咲く種類で、ヒガンバナ(リコリス)、コルチカム、ネリネ、サフラン(秋咲きクロッカス)
などがあります。
①の秋植え球根類は、花芽がその夏?までに球根内に出来上がって、冬を越して翌春に花が咲くタイプです。分布域はヨーロッパ、アジア、北アメリカなど北半球の温帯地域で温かい時期と寒い時期のある地帯です。 上述の球根類の多くが、スペインやイタリア、ギリシャなどの南ヨーロッパ、モロッコ、アルジェリア、リビアなどの北アフリカ、イスラエル、イラン、カスピ海沿岸地域などの中東に自生している球根類です。
この地域の気候は地中海性気候で、年間の雨量が400~700mm、冬場は100mm弱?/月、夏場は30mm/月程度で、ほとんど雨が降らず、晴れた日が多いようです。 なので、これらの球根類は、秋から春に葉を成長させ花を咲かせるのです。春の終わりには十分に球根が太り、その中には秋から冬に花咲かせる花芽が準備されているのです。 そして、もうすぐやってくる夏場の高温と乾燥をしのぐために休眠に入るのです。
ちなみに、札幌の年間降雨量は約1,100mm、東京は約1,600mm弱です。
シクラメンの原種にヘデリフォリウムとコウムという種類があります。 この2つの原種シクラメンは地中海沿岸地域に自生する球根植物です。 この2種は、球根内に花芽を形成するタイプではないのですが、札幌ではフェデリフォリウムは秋に、コウムは翌年の春に花を咲かせます。
⇒ シクラメン コウム(原種) 春咲き種
百合が原公園内にあるロックガーデンの片隅にこの2種が樹の下に混植されています。夏の終わりから葉が出て、ヘデリフォリウムは秋に花が咲きます。 その後冬の間4か月近くすっぽり雪に覆われます。 雪が解けて4月下旬にコウムの花が咲きます。 花が終わり、夏が来ると地上部は枯れあがります。
この2種は開花時期が異なるので、デリフォリウムは夏植え球根で、コウムは秋植え球根になるのでしょうかね。 関東以西では夏にヘデリフォリウムの球根を植付けるには暑すぎるので、9月下旬に植付け、開花は11月以降になるのでしょか? そうなると、秋植え球根になるのでしょうか?
面白いですね。 当たり前のことですが、植物は場所によって生育状況に早晩が出てきて、それに伴い栽培方法も当然に違ってくるのです。
上述①秋植え球根類の中で、地中海沿岸地域以外を自生地とする球根は、アルストロメリアとユリです。
アルストロメリアは、チリやペルーを主な自生地とする南アメリカ原産の球根です。この種は、湿地帯、森林、砂漠など幅広い環境に適応している植物で、札幌で越冬する種類としない種類があります。
ユリ(ユリ属)は日本に15種が自生し、東アジアを中心に北アメリカやヨーロッパなど北半球に広く分布している植物です。 茶碗蒸しなどに入っているゆり根(鱗片)がお馴染みですが、ユリ属の球根は鱗片が重なってできたもので、その鱗片は皮がない?薄いため?、に乾燥に弱いのです。 この球根を保存する場合、園芸店で売られているように湿ったおがくずの中に入れます。ちなみに、北半球に広く分布しているのですが、夏場乾燥する地中海沿岸にはその分布域はないようです。
②春植え球根と③夏植え球根は次回にします。