ゴヨウマツ 樹皮の枯死

2017.8.27
写真は北大植物園にあるゴヨウマツ(ヒメコマツ)。 樹高は20.0mを越え、幹径は1.0m以上もあるる大きなマツです。 2017.5.4
地際から高さ1.5mくらいの位置に大きな切断痕が見えます。 直径が1.0m近くある太枝が、強風で折れたのか?、何らかの原因で枯れたのか?、いずれにしろ、直径1.0m近くもある枝を切断しなければならなかったことが起こったのです。 切断面の色合いや樹皮の欠損状況からすると、これは平成16年の最大瞬間風速50mを超える強風が吹いた台風18号の風が原因と思われます。

今日の話題は、大きな切断痕の下側の樹皮部分がなくなって木部が露出していますが、樹皮がどうしてこのように禿げ上がったか? についてです。 おそらく、太枝が切断された時点では樹皮はあったはずです。

切断面を詳細に見ると、切断面上部は巻込み(切断面の縁が丸く盛り上がっている)が出来ていますが、下部には形成されていません。 これは、おそらく、この樹の上部の葉でできた栄養がここまで降りてきてできたものですが、下側はそれが出来ない。 樹木はその場所まで栄養を運べない?運ばない?は解りませんが、樹木は上下での水分・養分の移動は容易できるのですが、横への移動は全くできないわけではないのですが細胞の構造上出来にくい、出来ないのだと思います。

それと同じように、樹木上部で必要な水分と栄養は根から吸い上げて上の方へ持上げていくのですが、 切断面の下側の樹皮部分は水を根から吸い上げても持っていく場所がないため、その部分の細胞は必要でなくなったのです。 その結果、樹木はその部分に栄養を運ばなくなります。 そして、だんだんと樹皮部分が枯れ上がって、木部が露出してきたのです。 おそらく、樹皮の枯れた側の地下にある根も枯死していると考えられます。 その部分の根も栄養を運ぶ必要が無くなったと同時に上から降りてくる養分も来なくなったからです。

樹木の主幹に凹凸があったり、歪(いびつ)になっていたりする、その原因は太枝の枯死・切断に起因するものが多いようです。

 

<余談:このゴヨウマツ(ヒメコマツ)の切断面とその下の主幹は今後どのようになっていくのか?>

樹皮の剥がれた部分の木部は腐って(腐朽)いきます。 太枝切断面も腐朽が進んで、だんだんと欠損していきます。 そして、長い時間をかけてその部分は洞(空洞)が出来ていきます。 最期には、地際の樹皮はアルファベットの文字のように、一部分欠けたリング状になっていきます。

2015.10.3
写真は、北大植物園内にあるハルニレです。 幹径は1.0mを超す大樹です。 主幹中央に折れた太枝の残骸が見えます。 その上下の幹は朽ち果てて樹幹内部は空洞になっています。
おそらく、この太枝も台風で折れたものなのでしょう。 長い年月、どれくらいなんでしょうね?、上記のゴヨウマツより以前に折れたのではないでしょうか?

 

樹皮・樹肌の履歴(その3) ケヤキ

通常、公園や街路にある樹木は、枯枝が樹木に残っていることは少なく、まして何年も放置されることはほとんどありません。 その理由は、街路樹は定期的な剪定を行うことや、公園内の樹木は枝が落果すると危険なので、気づいた時点で枝を切り落とします。 そのため、
イチョウ 2016.8.29 イチョウ
太枝を切断した面は、師部と木部の間にある形成層が円状に膨らんできて(巻き込みを形成)、最終的に切り口を完全にふさぎます。

ケヤキ 2015.8.10
ところが、護国神社横のケヤキの枯枝はまれなケースで、長さが5~6mで太さが14~15cmほどある枝がそのまま残っているのです。
この枯枝は、樹冠の下のほうで伸びていて、しかも、隣接木の樹冠が上を覆っているために光が入らなくなって、徐々に衰弱して枯れていったようです。
枯枝の基部(分岐部)に、茶褐色の枯れた部分と生きている樹皮との境界部分が灰色をしています。 そして、その部分には横に筋が幾重にも巻いていて、数えると7~9本あります。 おそらく、この枝が枯れ始めてから完全に枯れるまで7~9年かかっているようです。 太枝が自然に枯れていくと樹肌にはこのような痕跡を残すのですね。

これから2~3年?すると枯枝が脱落します。 そして数年?10年以上?、樹種による違いはありますが、それなりの年月をかけて、
ケヤキ  2015.3.26
このように傷口は完全にふさがります。

樹皮・樹肌の履歴(その2) イロハモミジ

イロハモミジ 2015.0.7
山鼻小学校と行啓通の間に列植されているイロハモミジです。20本前後ありますが、その内の一番東側にある1本です。 大きさは、樹高8.0m、葉張12.0m × 10.0m、直径約61cm(幹周1.91m)です。 大正4年(1915年)に苗木を植えているそうで、樹齢は100年ちょっとです。

イロハモミジ 2015.10.7
写真、主幹中央に長さ約60cmのクラック状の筋が縦に走っています。 どうしてこれができたのか? 普段、樹木を見ても、それにクラックがあろうが傷があろうが、それがどうしてできたのか?なんて、そんなことは考えたこともありませんよね。 考える必要もないのですが・・・・。 しかし、そのクラック(傷)には、それができるそれなりの理由や経緯があるのです。

イロハモミジ イロハモミジ 2015.10.7
写真中央、 クラック上部に赤丸で囲んだ内側に見づらいですが、薄く横長の楕円形のようなものが浮かんで見えます。 これは、相当以前、何らかの理由で太い枝が折れたか、切断された名残です。
樹は、太枝が切断されると、その下の部分は水や養分を上げる必要がなくなるためやがて枯死します。 表面は樹皮で覆われているため生きているか死んでいるか分からないのですが、内部の木部(根から水や養分を上げる部分)や師部(葉でできたデンプンを幹や根に降ろす部分)は枯死してしまいます。 そうすると、その部分の樹皮は成長が止まります。 一方、周りの樹皮(生きている部分)は成長して年輪を積重ねていき太っていきます。それが進みにつれて死んで入る部分は成長できないので凹んできます。 さらに年月が経つと周りの樹皮が覆いかぶさってきて、最後に巻込み状のクラックとなるのです。 このクラック状の筋になるには、おそらく、30年 それ以上の40年はかかっているのではないでしょうか?

樹皮・樹肌の履歴(その1)  ケヤキ

ケヤキ2015.8.5
札幌駅から3丁ほど西に歩くと、北5条通を挟んで南に北大植物園、北側にこんもりとした樹木地があります。 この写真は、その樹林地に接する歩道上にあるケヤキです。 樹高は約20m、幹径は80cm前後ある大きな樹です。 3本ある内の真ん中の樹の幹が膨らんでいます。
ケヤキ 
近くで見ると、幹が手前と右手で2ヵ所ぷっくりと膨らんでいます。 その膨らみは、直径が約40cm、突き出ている高さは15cmほどあります。

今日の話題は、どうしてこのような膨らみが出来たのか? です。ケヤキ
この写真は、上の写真の右側の膨らみを近くから撮ったものです。 赤い線で囲まれた内側にS字状の線が走っています。 これは、なにを意味しているんでしょうか? 太い枝が切断されると切り口の周りから切断された面をふさごうと再生組織が膨らんできます。 月日が経ってくると切断された枝(材の部分)は腐って抜け穴(あなが開いた状態)が出来ます。 樹は穴をふさごうとその部分を分厚くしていきます。 そして、最後に組織がふさぎきって癒合したのがこのS字状の線です。 おそらく、膨らんでいる内側は空洞になっていると思います。
ケヤキ
この膨らみは、切断された面をふさぐ最終段階のようです。 あと2~3年で完全にふさがるのではないでしょうか

この根元近くにふくらみを持った樹木は、人や車の通行に支障になるなど何らかの理由で太い枝が切り落とされたようです。 S字状の線の長さや膨らみの大きさからすると直径が10~20cmの枝が切断されたのでないでしょうか。
若い樹の細い枝を切った場合は、幹が太るにつれてその傷は見えなくなるのですが、ある程度成長した樹(幹が太くなった樹)では、太い枝を切断された場合、このように大きく膨らむようです。そして、完全に傷がふさぎきるまでに20年以上?の年月を要しているのではないでしょうか。