アカエゾマツ  枯らす

2025.6.10
写真中央に丸く刈り込んで褐色になった樹木があります。 樹高が約3.0m程の枯れたアカエゾマツです。 植えて35年程たちますが、毎年刈り込んでいるので、この形状を保っています。毎年刈り込んでいても少しづつ大きくなるので、最近は樹冠上部の刈込が難しくなってきました。
それで、アカエゾマツには可哀そうなことをしますが、これを枯らしてクレマチスでも這わせようかと考え、アカエゾマツの地際近くの幹周をノコギリで1cm弱?切り込みました。 それが一昨年の夏です。
昨年はまだ生きていました。 新芽が出たかどうか自分でははっきりしないのですが、おそらく出ていない、しかし、葉は緑で元気そうに見えました。 さすがに夏を過ぎると、来年には枯れてしまうだろうと思わせるほど、葉に精気が無くなっていきました。
そして、今春アカエゾマツの葉は褐色になり、,完全に枯れました。。
2025.6.10
これは、アカエゾマツの幹周りをノコギリで切り込んだ写真です。 切込みを入れたところから樹液(ヤニ)が滲み出ています。

〇 樹木の幹を一回り切り込むとなぜ樹木は枯れるのか?

画像は「白谷工房」さんの画像をお借りしました。
→ https://shiroitani-koubou.com/news/%E6%A8%B9%E7%9A%AE/

上図は樹木の切断面です。図に形成層という文字があり、断面図には緑色で樹木を一回りしています。この部分は細胞の層で、維管束(導管と師管)を形成する役割を持っています。 導管は形成層の内側に、師管は外側に毎年新しく形成されます。 導管は根で吸い上げた水分や窒素〈N〉リン酸(P)や鉄(Fe)やマグネシュウム(Mg)などの微量要素を葉に運ぶ管です。 師管は葉で行われる光合成でできたデンプンを幹や根に運ぶ管です。
樹木の幹が太くなるのは、形成層で毎年できる導管が増えることによって太ります。それでは導管と同じように毎年形成される師管はどうなるのでしょうか? マツの樹皮が剥がれるのは役目を終えた師管の残骸なのです。師管は形成層の外側にできるので、古いものから順次剥がれていくのです。
次に、上図の樹木断面図に辺材と心材という単語があります。 これは毎年できる導管の古いものです。辺材はまだ生きていて水や養分を通すことができますが、心材は導管の中に樹脂類が詰まって死んだ部分です。 心材は堅いので家屋の柱として利用されますが、辺材は心材よりも柔らかく含水率が高いため、乾燥すると収縮が大きくなり、板材では反りが発生しやすくなります。
以上は樹木内部の説明です。話をアカエゾマツの樹皮切込みに戻します。我家のアカエゾマツは樹皮表面から1cm程切り込んだだけなので、おそらく辺材の一部だけです。このことは、辺材は生きているので根が吸い上げた水分は葉に送られるのですが、葉でつくられた養分(デンプン)は師管部が切断されているので幹や根に送れません。 根にも太いものから細いものまでいろいろありますが、水分や養分を吸収できる部分は細い根から出ている根毛で、その寿命は数日~1週間程度と言われており、非常に短命なので、アカエゾマツは常に新しい根を出し続けなければなりません。新根を出していくということは、どこからか養分をもらわないと出し続けられません。
師管部が切断されて葉でつくられた養分が途絶えるので、アカエゾマツは樹幹や太い根にある養分を受け取る必要がありますが、今回の場合、地際で樹皮が切り込まれているので、樹幹の養分は受け取れません。太い根にためられた養分を使って新根を出し続けます。 このことで、とりあえず一昨年の夏から昨年の夏までアカエゾマツの葉が緑色を保つことができたのです。しかし、夏以降葉に水気が無く葉色が死んだようになったのは、太い根の養分も使い果たし新根も出せなくなったのです。 そして、厳寒期の寒風に晒されて力尽きたのです。
公園などで樹木が野ネズミに地際の幹を一周かじられると、2年くらいは生きていますが、3年目には枯れてしまいます。我家のアカエゾマツもそれと同じような運命をたどりました。
この枯れたアカエゾマツに大輪の花をつけるクレマチスを植えて這わせようと思っています。

 

 

 

樹皮・樹肌の履歴  アカナラ

札幌市役所の東側、北1条西2丁目にある市民会館前に植えられているアカナラです。 幹径は40~50cmくらいでしょうか。 根元がモコモコと異常に膨らんで四角い形になっています。

これは、植栽時に造られた植樹桝が小さかったためにその後の成長で根が盛り上がって、元々あった植樹桝を満杯にしたようです。 小さくなった枡を撤去して、新たに仕切石(植樹枡)を作り直したようですが、当初のものは地面から10cmほど高い植樹桝だったので、このように根が四角くなったようです。
街路樹枡からはみ出した根を持つ街路樹( → 樹皮・樹肌の履歴 プラタナス(その2) )を見かけますが、このように桝全体が根で一杯になったものを見る のは初めてです。

写真は、南区真駒内の街路樹アカナラです。
このアカナラも市民会館前のものと同じように、根が盛り上がってきています。 真駒内団地内の街路樹ですので、昭和40年代に植えられたもので、樹齢は60年前後でしょうか、幹径は50cmほどです。
これら2本の街路樹アカナラを見ると、根は何か障害物につきあたると、プラタナスの根のようにそれに覆い被さっていくのではなく、その内側に養分を溜めるというか、幹回りの成長より根が肥大する度合の方が大きいように見えます。

そして、もう一つ目を惹くのは、主幹と根の表皮の違いがはっきりとわかることです。 ハルニレなど根張りのある大きな樹を見ていますが、アカナラのように幹と根を分ける明確な線があり、しかも、表皮の模様に違いのある樹は初めてです。

このことがあってから、他の根張りのあるアカナラの根元を見てみると、全てに幹と根の間に明確な線があり、縦に割れる主幹の樹皮に対し、地面から出ている根の表皮はブナのように滑らかのものでした。 しかし、根の表面が長い間地表にでているものには、表皮が縦に割れてきているものもあり、このことからすると、最後には主幹の樹皮と同じようになるのではないか と推測しました。
しかし、写真の四角く膨らんだ根については、生長する部分から外れている場合は、表皮はこのままなのかもしれません。

 

 

 

 

樹皮・樹肌の履歴 プラタナス(その2)

2012.9.17
写真は街路樹のプラタナスです。 幹径は70cm前後でしょうか。 おそらく、昭和40~50年代前半に植えられたもので、樹齢は60年前後と思います。 街路樹としては大径木になります。  注目してほしいのはプラタナスの根元の膨らみです。 歩道の縁石を覆うように拡がっています。
2012.9.17
これは上の写真の右側の1本。 根元の幹が膨らんで歩道の縁石に被さってきています。
2012.9.17
これは、上の写真の左側のもう1本。
こちらは、根元の幹が縁石を越えて車道のアスファルトまで達しています。

樹木は、樹肌に何か障害物にぶつかる(接触する)と、その圧力点を感知して、その部分がホルモンの作用により膨らむというか、余計な木部を生成します。
11月27日のブログで、街路樹の主幹に支柱との接触でETに出てくる宇宙人の顔を紹介しましたが、今回はプラタナスの幹が道路の縁石にぶつかった場合のケースです。 このまま放っておくと、つきたてのお餅のように、歩道と車道にべったりと拡がっていくのでしょうね。

<余談>
最近は、札幌も含めて大きな都市では、大きくなった街路樹が問題化しています。
地先の住民から「落ち葉の処理が大変だ。 日陰になる。」という苦情はまだましな方で、台風時の強風で太枝が折れたり、根元から倒れる根返りなどで近接の建物に被害を与えたり、最悪の場合、通行中の車や信号待ちの車に倒れたりすることによって人身事故を起す場合もあります。
その点、このプラタナスは強風による倒木の心配は少ないようですが、この見た目の悪さを何とかしようにも、何ともしようがなさそうです。 この街で何十年も生きてきた樹を見た目の悪さだけでバッサリと切断するのは、説得力のある理由にはならないので、なかなかできないものです。 これら大きくなりすぎた街路樹の取り扱いはなかなか難しい問題です。

 

 

 

樹皮・樹肌の履歴  イヌエンジュ

2015.10.27
写真の樹幹にへんてこりんな傷?が見えます。 どこかで見たような、なにかに似ている、だれかに似ている、と思いませんか?
そうです。 あのスピルバーグ監督の映画、ETに出てくる宇宙人の顔です。

これは街路樹のイヌエンジュです。 地下鉄南北線と平行して走る平岸通、澄川駅の近辺で見つけました。
この模様がついている位置は地際から約1.2~1.3mの高さのところです。
それにしても、どうしてこのような模様ができたのでしょうか?

街路樹を植えるときには、風などで樹がぐらつかないように支柱(二脚鳥居支柱)を立てて、街路樹の幹に傷がつかないように杉皮を巻き、そこにしゅろ縄でがっちりと固定します。
2017.11.5
本来、街路樹を植えて根が活着して落ち着けば、その時点で支柱を取り外すのですが、それが遅れて、このような模様ができたようです。

樹木は、樹肌に何か障害物にぶつかる(接触する)と、その圧力点を感知して、その部分がホルモンの作用により膨らむというか、余計な木部を生成します。
たとえば →  ガードレールを丸呑みするヤナギ
のように、ガードレールに接触した部分が膨らみ、最後に飲み込んでしまっています。

今回のETは、街路樹の支柱の横木に接触してこのような模様でできたようです。 それでは何故目玉のような膨らみが2ヵ所とその下に唇のようなものができたのでしょうか?

本来なら、支柱に長い期間接触していると、樹幹の模様は支柱の横棒の上下に膨らみができるように思いますが、実際は下の写真のように様々な形状(パターン)があるようです。

それは、樹木の太さ、支柱の種類、取り外される時期(どれくらいの期間、支柱の横木と接触していたか)、風の向きや強さ(市街地はビルなどにより風の向き・強さが一様ではないため、樹肌に加わる圧力が違ってくる)などの条件が異なることによって、違った模様(傷)ができるのでしょうね。

それにしても、ETの顔の目玉のような膨らみがどうしてできるのか?は、自分なりの答えが見出せないというか、不思議です。

 

樹皮・樹肌の履歴  プラタナス

2015.8.4
街路樹プラタナスの地際付近に こぶ状のものが並んでいます。 大きさは、高さが3cmくらいで直径が5~6cmでしょうか。
2015.8.4
それでは、いったい何が原因でこのようなこぶ状のものができたのでしょうか?
樹木には、傷、剪定、病気などでこぶ状のものができますが、これはそれらのものと少しタイプが違うようです。
これは、長さが約3cm、直径が1cm程のカプセルを樹幹に打込んだためにできたこぶです。 カプセルの打ち込み間隔は10cmです。 ので、大きな樹になると10本以上打ち込むことになります。
カプセルを打込まれたことで、プラタナスが傷を修復しようとして、、このようなこぶができあがったのです。  このカプセルには農薬のオルトラン(殺虫剤)が入っていて、街路樹についた害虫を駆除または予防するためのものです。

他の街路樹シラカバ、トチノキ、イヌエンジュ、アズキナシ、ケヤキなどでもこのカプセルが打ち込まれています。 しかし、このようなこぶができるのは、私が見た限りではプラタナスだけのようです。

 

<余談>
今から20~30年前までは、街路樹に害虫が発生した場合、農薬を散布することがありました。 しかし、①雨や風が強い日は出来ないことや、②住民の農薬に対する拒否反応?アレルギーの高まりで、農薬散布を付近住民に事前周知しなければならないこと、③住民の方に影響が出ないように早朝に散布しなければならないこと、④国からの農薬散布に対する指導強化などがあって、施工する側にとってはやっかいでやりにくい作業であったのです。

一方、街路樹が大きくなるにつれて、害虫が原因の苦情も多くなってきていました。
あるラーメン店から、
「店先にある街路樹から飛んできた虫がお客さんのラーメンに入った」とか
サイクルショップから
「店先に並べてあった自転車のサドルやハンドルがべとつく」(これはアブラムシが樹液を吸って出る排泄物(甘露というそうです)が風に乗って付着したもの)

などの苦情があると、早急に対応処置しなければなりません。 しかし、先程述べたように、なかなか厄介な作業であるためにすぐに対応しきれない場合も出てきます。 そんな状況に出てきたのがこのカプセル(オルトラン樹幹注入材)です。

このオルトラン(商品名:オルトラン 農薬名:アセフェート)は、※接触性の農薬ではなく浸透移行性のため、あらかじめ樹幹を通して葉に沁み込ませておけば、長期間薬効があるため、計画的に害虫が発生する前に作業することができます。
以上の理由から、現在では街路樹の場合、害虫の駆除はほとんどがオルトラン樹幹注入で対応しているようです。

※農薬の種類
接触剤:殺虫剤の多くは接触剤に属します。直接害虫にかからなければ効果のあらわれない薬剤などもありますが、多くは散布された場所に害虫が触れても効果があらわれます(「マラソン乳剤」、「スミチオン乳剤」など多数)。この種の製品はかけむらのないようにていねいに散布することが必要になります。

食毒剤:散布された葉などを食べることによって害虫が退治される薬剤です(「ゼンターリ顆粒水和剤」)。食害は直ちに止まるため被害防止に役立ちます。

浸透移行性剤:食毒剤の一種ですが、普通の薬剤は植物に吸収されても植物体内を移動しませんが、根や葉から吸収されて移動する薬剤を浸透移行性剤(「オルトラン粒剤」、「ベニカ水溶剤」、「ベニカベジフルスプレー」など)といい、その植物を加害した害虫を退治します。長期間効果が持続するため便利な薬剤です。特に、「オルトラン粒剤」、「オルトラン水和剤」などは食害性害虫と吸汁性害虫の両方に効果がありますので、家庭園芸向きの薬剤です。
(住友化学園芸より)