ヤマグルマ  百合が原公園

2023.6.18
写真のヤマグルマは、前回(6月24日)投稿したマグノリア  アシェイの数メートル横に植えられています。樹高は3m程のこじんまりとした樹姿で、強いて言うなら同じ常緑樹のアセビ(馬酔木)に似ているのでしょうか。
2012.4.6
⇒ アセビ  ツツジ科の常緑低木2023.6.18
ヤマグルマは、ヤマグルマ科ヤマグルマ属の 1科1属1種の常緑広葉樹で、大きいものは20mにもなるそうです。 日本では本州の東北南部~九州に分布しています。
百合が原公園の方に、どれぐらい大きさのものをいつ頃植えたのかを尋ねたのですが、分からないとのことです。 見た感じ、このヤマグルマは植えられてからある程度の 年数を経ているようなので、樹木の成長はゆっくりしたしたもののようです。
2023.6.18
ヤマグルマの花は花弁もガクもなく、写真の花の中心にある緑色の半球状体の回りから糸のようなものがたくさん出ていますが、それらは雄しべのようです。 ヤマグルマの名前は、葉が枝先に車輪状につくことから名付けられたようです。

ヤマグルマは、花が特別にきれいでもなく、葉の形状に特徴があるわけでもない至って普通の樹木なのですが、他の広葉樹と違う特異的な形質を持っていることで知られています。 通常、広葉樹は根から吸い上げた水や養分を導管と呼ばれる管を通して樹上若しくは葉に運ぶのですが、このヤマグルマは針葉樹と同じ仮道管と呼ばれる菅によって運ばれるのです。
それでは、導管と仮道管はどう違うのでしょうか?
広葉樹で一般的な導管は、個々の細胞をつなぐ上下の壁が無くなって1本の長い菅になり、菅の中を水はスムーズに流れるのですが、仮道管(紡錘形)は、導管のように上下の壁が無くなるわけではなく、上下の細胞に壁口(へきこう)という穴が開いていて、その部分から水が流れるのです。 なので、水の流れは仮道管より導管の方がスムーズです。
しかし、導管にもデメリットがあり、冬に気温が下がり導管内の水が凍結すると細かい気泡できて、春先に氷が解けると、それが集まって大きな気泡になり、導管内の水柱が途切れて樹冠上部に水を吸い上げることができなくなるのです。
一方、仮道管は内部の水分が凍結しても、それぞれの細胞は導管のものより細く、しかも上下細胞が壁口という穴で繋がっているだけなので、小さな気泡が集合せずに大きな気泡を作りにくく、斜めに接しながら繋がっているため、水柱が途切れることは少ないのです。

話は少し逸れて「樹木の進化」になります。

今から4億数千年前、海中から陸上に進出した原始的な生命体は、長い長い時間を経て維管束を持つシダ類に発達し、今から約3億5000万年前(古生代石炭紀)に木性シダ類によって森林が形成されます(現代の我々はこの遺体を化石燃料として利用)。
シダ類は湿った環境での生繁殖が可能で環境への耐性が低かったのですが、今から約2億5000万年前(中世代初期;三畳紀)、シダ類の次に現れる針葉樹類、イチョウやソテツなどの裸子植物は、胞子で繁殖するのではなく、種子を形成して水気の少ない場所でも繁殖生存できるようになったのです。
シダ植物の繁茂した場所は湿潤な地域に限定されるのですが、種子植物の出現により陸上のより乾燥した場所や高山のより高い場所にまで生息域を拡げることができたのです。 想像するに、その当時宇宙から見た地球の赤茶けた?陸上が緑色に徐々に拡大していくのが見えたのでしょうね。
そして、裸子植物の出現から約1億年を経て、今から約1億5000万年前、導管を持つ樹木(広葉樹)の出現です。 それまで地球を覆っていたマツなど針葉樹類は成長の早い広葉樹に追われて、寒い地域や高い場所に追いやられていったのです。

樹木の進化を辿ると、ヤマグルマは針葉樹から広葉樹に移行する時代に出現した樹木のようで、常緑広葉樹より成長は緩慢だけれど、針葉樹には劣るけれど導管を持つ広葉樹よりも耐寒性はある植物と考えてもよさそうです。
常緑広葉樹が生息するには札幌は厳しい条件の場所なのですが、維管束に仮道管を持っているヤマグルマだから越冬できる、それが大きな要因の一つと考えられます。ヤマグルマは樹高が20mを超えるものもある高木性樹木なので、百合が原公園にあるヤマグルマが今後どのように成長するかが楽しみです。 このヤマグルマが植えてから何年くらい経つのかが分からないのが少々残念です。

<追記>
常緑広葉樹で仮道管を持つ樹木は、ヤマグルマのほかに、お正月に飾り物の切り枝として使われるセンリョウがあります。